日本には「国家の物語」が欠落している 財政再建が進まない本当の理由

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その後、20年間以上にわたり、規模は異なれども、こうした景気対策は何度も何度も実施されます。旧来型の公共事業や減税だけではなく、規制緩和などの構造改革も同時並行的に実行されました。加えて、高齢化による社会保障の支出が膨れ上がり、国家財政も厳しい状態に陥りました。世界的には、冷戦が終了することにより、日本の外交安全保障は、より自主的な対応を迫られてきました。

このように私の官僚時代、そして、その後の議員時代は、国家の「改革」が叫ばれる時代と重なったのです。その間、行政改革、政治改革、成長戦略、社会保障改革、財政再建、外交・安全保障の強化などについて、侃々諤々と議論がされてきました。

時の政府が、それなりに一生懸命取り組んできたことも事実でしょう。しかし、結果として中途半端に終わっていることは、誰しも認めざるをえないでしょう。その理由は、政治の力不足や混乱のせいもあります。官僚の抵抗もあるのかもしれない。しかし、それだけではありません。

よく改革は「痛みを伴う」と言われます。なぜなら、それは、何らかの国民の犠牲を要求するものだからです。

大蔵官僚として経験した、消費税増税 

私は、留学から帰国した後に、大蔵省の主税局という税制を扱う部署に配属されました。ちょうど消費税率を3%から5%に引き上げる時期でした。総務課の係長として、私はこの引き上げの実施にかかわりました。国会で総理や大臣が答弁に立つ前日は、徹夜は当たり前でした。実際の答弁作成は、夕方から始まりますが、野党やマスコミに言葉尻をとらえられないように神経をとがらせるとともに、質問の圧倒的な多さから、大変時間のかかる作業でした。

翌朝になり、役所の窓から清々しい日が差し込み、鳥のさえずりがいつからとなく始まる。外はさわやかな朝を迎えているのに、部屋の中は、薄暗くどんよりとしている。この部屋で、答弁の最終決済をする企画官の机の前に、各課の答弁責任者が夢遊病者のていで列をなして、自分の番を待つ。やや異様な情景でしたが、今や、懐かしい思い出となっています。

現在、消費税そのものについて、異論を唱える人は少ないでしょう。増税なしでは財政がもたないという理屈は、だいぶ浸透しているようです。しかし、政治は、理屈だけではなかなか通りません。当時も、「消費税増税だけではない。同じ時期に、政府は、特別減税の廃止、医療保険の本人の負担分も引き上げようとしているから、庶民の立場から言えば、全部で9兆円の増税だ。けしからん!」と厳しく批判されました。

実際、翌年の1998年の参議院選挙では、自民党が大敗し、橋本総理は退陣をしました。

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