早くも陰り…九州「産業革命遺産」の課題山積 世界遺産登録の恩恵が、熊本地震で急変

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関係自治体や旅行関連の企業・団体などは6月、連携して周遊ルートづくりやPR活動に取り組む「世界遺産ルート推進協議会」を設立。産業遺産の歴史や特性を動画やクイズで楽しみながら学ぶスマートフォン向けアプリの開発も進めている。

保全の取り組みも動いている。端島炭坑については長崎市が、風化が進むアパート群の補修や補強に活用しようと、25年度までに6億円を積み立てる「軍艦島整備基金」を創設した。担当者は「優先順位を付け、遺産の価値を保ちながら保護に努めたい」と話す。

昨年の世界文化遺産登録を後押しし、内閣官房参与として保存活動や情報発信を主導する加藤康子(こうこ)氏に、今後の課題などを聞いた。

ユネスコ世界遺産委員会から出された「宿題」

「明治日本の産業革命遺産」の魅力を語る加藤康子内閣官房参与

――産業革命遺産が意味するものは何か。

50年余りの短い期間で、明治日本は人を育て、近代国家となり、工業立国の土台を築いた。わずか半年で、マスト1本の船に海運を依存していた幕末の日本が大海原を渡る大型船を建造し、ねじ山を紙やすりで作っていた日本が近代製鉄所を建設した。試行錯誤し、挫折を乗り越えて産業革命を成し遂げたことを23の資産が示している。

一つ一つの構成資産では世界遺産の価値はないが全体のストーリーとして世界遺産としての価値を共有している。建国の歴史でもあり、ぜひ子どもたちに伝えたい。

――ユネスコ世界遺産委員会から宿題を出された。

端島炭坑(軍艦島)など構成資産を守る仕組み作りや遺産への理解を推進するための人材育成、展示計画の策定などを登録決定時に勧告された。2017年12月1日までに進捗(しんちょく)状況の報告を求められていて、18年夏の世界遺産委で審議される。十分に世界遺産の価値を説明できていないことも課題だ。

――韓国が戦時中の徴用を巡って反発した。

(登録は)韓国政府の猛反対の中、大変な難産だった。ユネスコの世界遺産委は本来政治を持ち込む場ではない。それを許してしまったことは残念。この遺産群は、幕末から明治にかけての産業化の道程を価値としている。

――日韓併合の年でもある1910年で近代化の時期を区切ったのはなぜか。

登録を目指す過程で、日本が産業国家として花開き世界で認知されたのはいつか、ということを国内外の専門家で議論し、この年に英国で開催された日英博覧会と位置付けた。

――政府は戦時徴用の歴史などを説明する施設を設置すると約束している。

戦時徴用については(当時の証言や関連文書などの)1次情報を収集中だ。展示戦略の中で方向性を検討する予定。真実は何よりも大切なので時間をかけて情報を整理したい。

(文:記者:萩尾奈緒香、永野稔一 聞き手:竹森太一)

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