警察は「前兆」のある事件をなぜ防げないのか 障害者大量殺人とアイドル刺傷事件の共通点

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ただ、問題は警察側だけでもありません。社会全体も危機意識を高める必要があります。報道によると2月14、15日と植松容疑者は衆議院議長公邸を訪れたとされています。

14日の1回目に、容疑者が訪れた際は、手紙を渡そうと、土下座をし、座り込んで動かず、警察官が職務質問をすると立ち去ったとされています。

翌15日彼が再び公邸を訪れ、前日と同様に座り込んで動かず、2時間も動かなかったため、やむを得なく衆議院側が犯行予告の手紙を受け取ったのです。

衆議院側は、"事件"というよりも"迷惑"だという認識のもとで警察官に危機感・緊張感を伝えなかったのかもしれません。事件として迅速に対応(逮捕)してもらう認識で伝えていれば、その場、あるいは数日以内に逮捕してもらうことはできた、と私は思います。なぜなら犯罪予告は威力業務妨害や脅迫にあたるからです。

措置入院させていた病院の危機意識は…

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神奈川県警から連絡を受け、植松容疑者を措置入院させていた病院の危機意識はどうだったのでしょうか。報道では入院後、検査から植松容疑者から大麻の陽性反応が出たとされています。犯行予告をしている容疑者、更には大麻の陽性反応がでている人物にもかかわらず、病院側は通報をしていません。

法律では覚せい剤の通報義務はあっても、大麻の通報義務はありません。また入院期間は2月19日から3月2日と短い期間だったようですが、措置入院の基準や医療観察法の理由があるにせよ、診断結果、入院期間、その後のフォローについては適切だったのか疑念を抱きます。

今回の事件を見ていますと、容疑者が犯行に及ぶまでの"前兆"は多くの関係者たちが感じ取れたはずです。一見すると法律やルールに従って責任を果たしているように見えますが、その手続きなどは所詮、「他人事」「管轄外」と事務的にこなされていただけに感じてしまうのです。危機意識の不足が、事件の発生にまで導いてしまった側面は否定できません。

この危機管理の欠如は人間関係の希薄さが関係しているのでしょう。見て見ぬ振りが当たり前の世の中で、「危ないやつにはかかわりたくない」とか、「危ないけど最悪なケースにはならないだろう」としているのではないでしょうか。「日本の治安がいい」は勘違いです。あらゆるところに「前兆」が潜んでおり、いつあなたに事件が襲い掛かるかわかりません。そろそろ「日本=平和」の錯覚から目を覚まさなくてはなりません。

佐々木 保博 危機管理コンサルタント/セーフティ・プロ代表

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ささき やすひろ / Yasuhiro sasaki

1980年から埼玉県警察官として28年間勤務したのち、円満退職。その後、国会議員の公設第一秘書を経て、日本の慢性的な危機管理意識の欠如を痛感。警察では立ち入れないところの「正義」を実現するため「民間警察」として困った人のあらゆる悩みに解決策を提供する、株式会社セーフティ・プロを設立し、代表取締役に就任。警察OBの経験を生かしつつ、日々多様化するストーカー被害、反社会勢力などによる暴力、家族の失踪など日常のあらゆるトラブルに対し、警察や弁護士と違った角度から、常に相談者の気持ちを考えて適切な対応をアドバイスしている。

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