束の間に終わる「アベノミクス再起動」の夏 市場は決して政策を好感していない

拡大
縮小

まず、政府が打ち出した事業規模28兆円の経済対策。事業規模は過去3番目であるが、いわゆる「真水部分」(国と地方の直接歳出)は7.5兆円に過ぎない。

問題は経済対策の規模ではなくその効果である。

今回の経済対策の効果について政府は「本対策に基づく予算措置により短期的に現れると考えられる実質 GDP(需要)押し上げ効果を現時点で概算すれば、概ね 1.3%程度と見込まれる」と発表している。

2016年1-3月期の実質GDPは約530兆円であるから、1.3%程度の効果は約6.9兆円と、真水の7.5兆円を下回っていることになる。
「短期的」とは断っており、一概にはいえないが、経済対策の原則は、その効果が真水を上回ることのはずだ。政府が、経済効果が真水を下回る経済対策を打ち出すということは、数字だけ見れば、さほどの効果のない可能性のある投資をするということに他ならない。

大量のETF買いの一方、円高要因をつくる日銀

財政が厳しい中で、「初めから効果が薄い」と見込まれている経済対策を打ち出すということは、財政赤字を増やす政策でしかない。これではいくら事業規模が過去3番目の大きさといっても、投資家の信頼を得られるはずはない。

民間では考えられないような経済対策を行うのなら、本来は十分な検証と説明が必要である。だが、ある意味で「初めから損失を被る」ことを分かっているものに積極的に投資していこうとしている「先輩格」は、マイナス金利の国債を大量に買い漁っている日銀でないだろうか。

その日銀は7月の金融政策決定会合でETF購入増額を決め、8月4日にはこれまで350億円程度であった1回の購入額の2倍以上に相当する719億円のETF購入を実施した。

しかし、ETF購入額倍増と同時に打ち出した「企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置」は、海外投資家の円調達コスト上昇を通して円資産投資に対する需要を抑圧するものだったと考える。こうした、株価に対して効果が異なる政策を打ち出さなければならないところに「金融緩和の限界」が現れているといえる。

先月末から日本の10年国債利回りが上昇に転じて来たのも、日銀が打ち出した「金融緩和の強化」によって海外投資家の円調達コストを上昇させた政策効果によるところが大きいのではないか。

次ページ安倍首相も日銀を擁護するが・・
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