消費増税延期でも「赤字減少」試算のからくり ますます気が抜けない「財政健全化」への道

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つまり、前述の通り、昨年は1.8兆円、今年は1.7兆円と歳出抑制効果が出た。しかし、2018年度以降の追加的な歳出抑制の効果は織り込んでいない。そうなれば、2018、2019、2020年度とあと3年度分の歳出抑制を追加できれば、4.5~5兆円(=1.5~1.7兆円×3年)は収支改善に貢献できる、と言いたげである。

しかし、これは歳出抑制努力を毎年積み重ねて初めて実現できるものである。望んだだけで実現できるものではない。そもそも、今年7月試算で織り込んでいる2017年度の歳出抑制でさえ、未実現である。まさに、これから年末にかけての予算編成過程で実現できるか否かが決まる。

社会保障費の抑制を実現できるか

しかも、この年末までの予算編成過程では、消費増税を2017年4月に行わないことに伴い、診療報酬も介護報酬も通常では改定しないこととなろう(消費増税を行うなら、それと連動した価格改定が必要なので両報酬とも改定されたはずだった)。そのため、両報酬の改定がないと、医療や介護での効率化・重点化効果を予算で計上することが難しい。したがって、社会保障費の抑制を「骨太の方針」通りに実現できる手段が、容易には見当たらない。

おまけに、8月2日に発表された経済対策「未来への投資を実現する経済対策」で、事業規模28.1兆円、財政措置13.5兆円のうち国と地方の歳出で7.5兆円も出すという内容が盛り込まれた。このうち、2017年度以降恒久的な歳出となるものは、前掲の7月試算の「中長期試算」に盛り込まれていない形で基礎的財政収支の悪化要因となる。こうした「逆風」を乗り越えて、どのように2020年度の財政健全化目標を達成するか、まだまだ気が抜けない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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