「安倍政権で日本経済復活」は本当か? 円安進行なのに、実質GDPはマイナス成長

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輸出産業にとっても円安の効果は限定的

1~3月期には、円安が実質輸出を増加させることになるだろうか?

それは、為替レートに依存している。とくに、ユーロ危機がどう推移するかと、アメリカ金融政策がどうなるかに大きく依存している。仮にアメリカが金融緩和を停止して金利が上がれば、日米金利差が開いて、さらに円安になるだろう。しかし、FRBは雇用が改善するまで金融緩和策QE3を継続するとしているので、近い将来にこうなる可能性は低い。ユーロ危機は昨年秋以降鎮静しているが、終息したわけではなく、いつ再燃するか分からない。仮にそうなると、資金がユーロ圏から逃避し、日本に流入して円高をもたらすことになるだろう。いずれにしても、今後の為替レートはこのような海外の要因によって決まる。日本が主体的にこれを動かすことはできない状態にあることに注意が必要だ。

今後も実質輸出が増えないなら、輸出関連の生産も増加せず、中小企業にとっては厳しい状況が続くことになる。

もっとも、これまでの円安だけでも、名目輸出額を増やし、輸出産業の利益を増やすことはありうる。ただし、右に述べた輸入額上昇のコストアップ効果を考えると、利益率の増加率は輸出額の増加ほどにはならないだろう。それを見るために、次のような計算を行ってみよう。

輸入のうち、原料品、化学製品、原料別製品、一般機械、重電機器、電気計測機器、半導体等電子部品の全額と、鉱物性燃料の半分が産業用に用いられると考える。これらの12年の輸入額合計は、36・0兆円だ。これは、輸入総額の50・1%であり、輸出総額の56・4%にあたる。したがって、仮に円安で輸出金額が1増えたとしても、産業用輸入額が0・564増えるので、差引では0・436しか増えないわけだ。

これは、平均的な値であり、この数字は産業によって大きく異なる。自動車のような組立産業の場合、原材料の輸入はあまり多くないので、輸出額の増大効果が大きいだろう。しかし、鉄鋼や化学のような装置型素材産業の場合には、原材料やエネルギーの投入が多い。このため、円安によるコストアップはかなり大きい。円安によって収益が減少する場合もあるだろう。

このように、輸出産業にとっても、「円安のメリット」は減殺されていることに注意が必要である。われわれは、改めて現実の経済の厳しさを認識すべきだ。

(週刊東洋経済2013年3月2日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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