ポケモンGOの安全対策は、十分といえるのか ユーザーの「自己責任」、どこまで成り立つ?

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 「アメリカでは、ポケモンGOのようなAR技術を利用したゲームの提供事業者の法的責任について、既に様々な議論がなされている。注意義務の程度に関しては、危険な地域にはモンスターやポケストップを表示させないような措置を取るべきで、このような措置を取っていない以上、注意義務を果たしたとはいえないのではないか、という意見も出ているようだ」(岡本弁護士)

ゲームに夢中になっていて事故が起きれば、もちろん自己責任であることが原則だ。しかし、その事故はゲームに「誘発」されたということも、また事実だろう。ARゲームの事業者に求められる、現実世界での事故を防止するための「注意義務」の程度はかなり高くなる可能性もある。

都心であれば、駅のホームは混雑するし、自動車も多く往来しているため、こうした場所では、そもそも事業者の側で、プレイ自体をできないような設定を徹底する必要があるかもしれない。実際、最近では日本でも駅など「歩きスマホ」の危険性が高い場所からは、ポケストップが徐々に削除されているようだ。

では、前述した免責規約は、訴訟になった時に、どのような意味を持つのだろうか。岡本弁護士は「裁判になった時の損害額を、最小限に抑える効果があることを期待している」と指摘する。

免責事項には、損害を限定する効果がある

メルカリで法務を担当する岡本杏莉弁護士

「規約に書くことで注意喚起したこと自体も、『注意義務』を果たしたという主張の一つの要素になる。また、もし消費者契約法等に基づき無効とされてしまっても、消費者契約法等で認められる金額までは負担するが、それ以上は負担しないという規定内容となっている」(同)

やはり、責任回避の条項は実際にはそれなりの効果を持つことになるようだ。これまでのスマホゲームでは、外でプレイしていたら事故が起きるという状況を予見することは、普通できなかった。未知の問題を発生させる可能性のあるAR技術を利用したゲームは、「ポケモンGO」をきっかけに、人々の間に一気に浸透していく潜在力を秘めている。ただ、日本には懲罰的損害賠償制度が存在せず、ドラスティックな賠償額は認められないため、実際に業者を訴えるという裁判が頻繁には行われず、事例も少ない。ARゲームの法的問題については、海外でどのような事実が発生し、訴訟が提起されるのかも、今後注視していく必要があるだろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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