金メダル18個の「怪物」を生んだ驚異の育成法 リオ五輪、競泳日本が警戒する最大のライバル

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厳しい言葉に聞こえるかもしれませんが、私が「もっとうまくやれ」とは言っていないことに注目してください。私は暗に、「おまえはもっとうまくやれるぞ。頑張れ。目標を高く持って、それを目指せ」と伝えているのです。そうほのめかすことで、大きな期待の下で戦うことに慣れる環境を作っています。

なぜ、レース前にわざとゴーグルを踏んづけたのか?

私の戦略が理想的な効果を上げた実例があります。以前、マイケルと私でオーストラリアに行き、ワールドカップ前の調整試合に出たときのことです。大きな試合ではなかったので、マイケルに試練を与えるチャンスだと思い、レースの前にわざと彼のゴーグルを踏んづけました。

マイケルはレースが始まってプールに飛び込むまで、ゴーグルが壊れていることに気づきませんでした。泳ぎはじめるとすぐにゴーグルに水が入りましたが、マイケルはその影響を受けることなく泳ぎきりました。

なぜなら、普段のワークアウトで1往復のストロークが何回かを数えさせていたおかげで、必要なストローク数が正確にわかっていたからです。だから、ゴーグルが壊れても、ストロークを数えることでプールの壁を見つけ、レースを泳ぎ切ることができたのです。

レース後、彼はゴーグルを見て頭を振りながら私のところへ来ました。私はゴーグルを踏んづけたことなど言わずに、こう言いました。「よくやった。バッチリだ」と。

そして、2008年8月13日の朝、北京オリンピック・200メートルバタフライの試合を迎えます。このレースで勝てば、マイケルにとって10個目の金メダルが実現するという大一番です。メディアはもちろん、会場にいる全員がそのことに注目し、ものすごいプレッシャーでした。

マイケルがスタート台から飛び込んだとき、異変が起きました。ゴーグルに水が入りはじめ、図らずも調整試合のときと同じ状況に陥ったのです。彼はそのまま泳ぎ続けましたが、どんどん前が見えなくなり、競争相手がどこにいるかも、壁がどこにあるかもわからなくなりました。

それでも、彼は練習で使っていた方法で見事に乗り切りました。1往復ごとに必要なストロークを数え、レースに勝ち、世界記録を樹立したのです。

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