別居婚夫婦が「里親」を目指す意外な理由 子どもは持たない、だけど未来に関わりたい

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東京・表参道の和食店で待ち合わせ、夕食をご一緒しながら宏美さんの話を聞いている。カジュアルなロングスカート姿が良く似合う宏美さんは、ややヒッピーだった20代を楽しげに振り返ってくれた。時はバブル。「フリーター」という言葉が明るい意味合いで使われていた時代だ。

3カ月だけ語学留学をするつもりでアメリカに渡った宏美さん。現地が肌に合っていたのだろう。大学院を出て就職するなど、8年半もアメリカに住み続けることになった。「あまり親しくはない友だち」だった幸一さんには何も知らせていなかった。

帰国のきっかけは2001年の同時多発テロだった。ビザの発給が厳しくなり、宏美さんは現地で働き続けることが難しくなる。帰国後、東京で映画関係の仕事を見つけた宏美さんは相変わらず気ままな独身生活を続けていた。すでに30代半ば。結婚を考えたりはしなかったのだろうか。

「何人かとお付き合いをして来ましたが、結婚を考えたことはほとんどありませんでした。正直に言えば、『もっといい人がいるんじゃないか』という気持ちが常にあったんです。学生時代や仕事関係の友人知人は今でも結婚していない人のほうが多いので、母親以外から『結婚はしないの?』と聞かれたことはありません。母親も私が40歳を過ぎたあたりから何も言わなくなりました。あきらめていたのだと思います」

「子どもは持てない」を結婚前に確認

そんなときに国際交流NPOつながりの飲み会で再会したのが幸一さんだった。彼も結婚をしないままファミレスからメーカーに転職し、熊本の支社に赴任していた。好きな音楽を聴くためにほぼ週末ごとに上京しており、宏美さんと一緒に飲む機会が増えていった。

「だいぶ親しい友だちの期間が数年続いてから付き合うようになりました。付き合い始めは明確ではありませんが、2人で温泉旅行に行ったのが始まりといえば始まりですね」

大恋愛というよりも「一緒に飲んだり旅行をしていて居心地がいいから」という理由で、長年の友だちから恋人に移行したようだ。大人の恋愛はこれぐらいの熱量がちょうどいいのかもしれない。

「1年後ぐらいに、子どもが欲しいかどうかを彼に聞きました。年齢的にも年貢の納めどきだとは思ったのですが、彼が子どもを望むのであれば私ではお役に立てそうもないからです。結婚話を進める前にこれだけは確認しておかなければ、と思いました」

幸一さんの答えは「子どもを作ることは考えていない」だった。むしろ、福岡に住み続けている両親の世話やお墓の管理を気にかけていた。それならば2人で知恵を出し合えば何とかなる。宏美さんは遠距離のままで結婚に踏み切る決断をした。45歳のときだ。以来2年あまり、東京と熊本での遠距離別居結婚を続けている。

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