電子書籍は「オカンが使えるIT」へ 繰り返された「電子書籍元年」

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「電子書籍元年」という言葉が盛んに言われるようになったのは21世紀に入り、電子書籍コンテンツのネット配信が本格化した2003~04年ごろだ。見開き画面で電子書籍が読める「Σブック」を松下が、モノクロ電子ペーパーを使った「Liblie」をソニーが発売。出版社やメーカーが参加する電子書籍の業界団体も相次いで設立され、「今年こそ電子書籍元年」というフレーズがメディアに躍った。

だが「元年」の号令に反して、電子書籍専用端末はそれほど普及しなかった。2008年、ソニーとパナソニックが相次ぎ、電子書籍専用端末の国内販売から撤退。端末価格の高さや使いづらさ、書籍のラインナップの少なさなどがネックとなったのか、ΣBookの販売数は数千台程度、次世代機の「Words Gear」は2400台にとどまったと松下は明かしている。

一度終わった「電子書籍元年」は再びやってきた。2010年のことだ。……が、前回の「元年」の大きな花火と、その後の失速を知っている筆者は、「またか……」と、オオカミ少年を見るような思いで眺めていた。

元年、再び

米国では、2007年に発売されたKindleが普及し、本格的な電子書籍時代が到来。10年秋に、日本でiPadが発売され、電子書籍が今度こそ日本でも普及するのではという期待感に包まれていた。国内メーカーも負けじと、シャープが電子書籍端末「GARAPAGOS」を、ソニーが電子書籍端末「Reader」を発売している。

「本書の書き手は、次の時代が始まるのなら『その扉を開けるのはぜひ自分たちでありたいと考える』おっちょこちょいかもしれない人びとだ」

「電子書籍元年」の到来にワクワクした作家たちと一緒に、出版社なしの電子書籍「電子書籍AiR」に筆者が参加させてもらったのは2010年。一流の書き手やデザイナー、イラストレーターが参加し、iPhone/iPad用に発売した同誌は、約1万部ダウンロードしていただいた。

だが今思うと2010年の「元年」も、実態の薄いブームだった。iPadやiPhoneは普及し始めていたが、あえて電子書籍アプリをダウンロードして読もうという人はそれほど多くはなかったようで、市場は業界関係者の期待ほど広がらなかった。

インプレスR&Dの調査によると、専用端末向けの電子書籍市場は、2010年度が24億円、11年度が112億円。急成長しているとはいえ、紙の書籍市場全体(1兆円超)の1%に届くか届かないかという雀の涙っぷりで、11年以降には、「電子書籍元年はまだ来ていない」とか、「今年こそ電子書籍元年になるか」など、失望論や期待論が渦巻いた。

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