円安で輸出企業は本当に潤うのか 中国、欧州向け輸出が激減

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大震災からの回復効果は 自動車だけの特殊事情

ごく最近はどうだろうか? 本稿執筆時点での最新数値は1月上中旬の速報値だが、輸出額は前年比3・2%の伸びに留まっている。数量、価格指数は計算されていないのだが、ドル/円レートは、12年1月の1ドル=76円程度から13年1月の1ドル=92円程度と、2割程度円安になっているので、輸出数量の対前年同月比はマイナス17%程度と、大幅に減少している可能性がある。つまり、輸出数量指数の対前年同月比は、円安の進行にもかかわらず、12月のマイナス12・2%より悪化している可能性が高い。

仮に1月下旬の輸出額が1月中旬と同額とすると、13年1月の輸出額は、12年12月に比べて17%の減少になる(もっとも、例年1月は前年12月より減少する)。

輸出数量と輸出価格の指数の推移を図に示す。数量指数は12年6月から一貫して低下しており、とくに12月の落ち込みが顕著だ。円安が進行したため、9月以降の価格指数は対前年比でプラスに作用しており、数量の落ち込みを補っている。ただし、数量の落ち込みのほうが大きいため、輸出指数は対前年比で、12月まではマイナスを続けた。

2月初めには、為替レートが前年より23%程度減価している。数量指数の減少は多分これ以下に留まるだろうから、輸出額は前年より増加するだろう。しかし、数量が大きく落ち込んでいるので、国内生産が落ち込むことは間違いない。

このように、日本の輸出産業は、輸出数量の激減という深刻な問題に直面している。繰り返し述べるが、これは、円安の進行下でも続いている現象である。むしろ、時間を追うほど深刻になっている。実際、12月の数量指数の対前年比減少率は、12年で最大の値だ。13年1月には、それがさらに深刻化している可能性が高いのである。

つまり、ごく最近まで、円安は輸出数量を増加させていない。したがって、国内産業を活性化する効果もない。単に輸出関連企業への所得移転を引き起こしているだけである。

ただし、輸出数量の推移に関して、自動車関連だけは例外だ。乗用車の生産、輸出は、東日本大震災の影響で11年4、5月に落ち込んだので、12年春には大きく伸びた(12年3、4、5月の乗用車輸出台数の対前年伸び率は、32%、136%、74%)。12年全体では、8・4%増加だ。これは、円安の影響ではなく、11年に生じた特殊要因からの回復であることに留意しなければならない。ただし、その後は伸び率が低下している。12月の対前年比は、自動車の輸出額は前述の通りマイナス6・6%だが、乗用車の輸出台数はマイナス14・4%である。

(週刊東洋経済2013年2月23日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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