世界一清潔な羽田空港を作る「プロの仕事」 清掃とは、これほどまでに奥深い

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清掃をする上で、CS(customer satisfaction=顧客満足)の視点をつねに忘れない。責任と誇りを感じながら作業している点が、「世界一」という評価につながったのかもしれません。

新津春子さん

英国SKYTRAX社の評価基準は一切、明らかにされておらず、いつ調査が行われるかもわからないので、私たちは日々の清掃を一生懸命やるだけです。世界に数多くある空港の中で、3回も世界一という評価をいただけたのは、大変光栄なことだと感謝しています。

清掃員が身だしなみを整えることも、おもてなしのひとつです。空港では早朝や夜間だけでなく、お客様の目に触れる時間帯に清掃することが少なくありません。汚れやすい洗面所などは、日に何度も清掃しますし、巡回スタッフが汚れている場所を発見すれば、直行してすぐ処理するシステムになっています。清掃員であっても髪や作業着に清潔感が必要です。

また、道具の扱い方、持ち方、にこやかな表情、お客様を邪魔しない動き方など、ただ作業するだけでなく、パフォーマンス的な身のこなしにも留意しています。つねにお客様を意識し、小さなお子様からお年寄りまで、どなたにとっても清潔かつ安全な空港にしていくことが私たちの使命です。

基本や手順がしっかり身についていないと余裕を持って清掃できません。正しい清掃方法をマスターすることは、自分への「やさしさ」にもつながります。自己流の無理な姿勢で作業すれば余計な部分に力が入って疲れやすいものですが、コツをつかめばラクに清掃できます。

適切な道具や洗剤を使えば時間も短縮できます。身体への負担が少なく、早くきれいにできるので、精神的にも余裕が生まれ、お客様に笑顔で応対できるようになっていきます。

マンツーマンの指導でトレーニング

基本的な作業は新人研修で教えますが、あとは担当を決め、マンツーマンで指導します。清掃員はレベルの差が大きく、ベテランから初心者に近い人までさまざまです。同じトレーニング内容では経験の少ない人には難しく、経験豊富な人は飽きてしまいます。各自のレベルを確認しながら教え、特殊な機材の操作や独得のテクニックは、私が直接やってみせながら覚えてもらっています。

私が入社した頃は、恩師である故・鈴木優常務が教育担当でした。常務は羽田空港の清掃システムを構築した方です。私と設備担当の次長の2人が指導を受け、その後、さらに3人のスタッフを養成して、羽田空港の清掃体制を強化してきました。「環境マイスター」の称号を持つのは私1人ですが、他の4人も外部で清掃技術を教えるインストラクターの資格をもっています。

広大な空港は1人や2人では清掃できません。現在、第1・第2ターミナルの清掃員は約500人。全体では約700人に達します。しっかりした理論とテクニックで指導し、手本を見せられる人がいないと隅々まで行き届いた清掃ができません。常務から始まり、進化してきた羽田流の清掃方法をマンツーマンで鍛えつつ、チームで動く現場では、お互いに教えあいながらスキルを磨いています。

徹底的な現場主義も羽田空港の特徴です。鈴木常務は、清掃を理論的・科学的にとらえ、欧米の先進的なシステムを導入し、職業訓練校で教鞭を取るほどの方でした。清掃をプロフェッショナルな仕事にしようと、スタッフの資格取得にも積極的で、人材育成に熱心な方だったのです。常務がいたからこそ、清掃という仕事の本質と奥深さに気づくことができたと感謝しています。

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