日銀新総裁を待ち受ける難題 超金融緩和策には大きな副作用(日銀ウォッチャー)

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日銀は超過準備に0.1%の利息を支払っている。新総裁がそれを引き下げる可能性を排除することは現時点ではできないが、外為市場や株式市場の関係者が思っているほどその決断は容易ではないだろう。

付利の撤廃に効果はなく、副作用ばかり

なぜなら、付利をゼロ%に引き下げると、金融機関にとって、超過準備を持つインセンティブがなくなる。日銀の資金供給に応じようとしなくなる金融機関が急速に増加する。その場合、日銀は資産膨張でデフレ脱却への努力姿勢をアピールしようとする「量のイリュージョン」を利用できなくなってしまうからである。

また、付利をゼロ%にすると、貸出支援基金が機能しにくくなる恐れもある。その他にも議論しなければならない話は、山ほどあらわれてくる。その割に、付利をゼロ%にしたところで、銀行の貸し出しが伸びることはまずない(優良な企業に資金需要がなければ、現在の銀行は様々な規制を受けているため、貸し出しを増やしたくても増やせない状況にある)。

さらに、付利の撤廃によって短期金利をゼロ金利に限りなく近づけると、短期金融市場の機能が悪化し、資金はかえって流れなくなる。FRBは超過準備への付利を日銀よりも高い0.25%に維持している。バーナンキは、マクロ経済に与えるメリットとデメリットを比較考慮すると、FRBは付利の引き下げを行うべきではない、とこれまで議会などで何度も説明してきた。

そういった議論が海外からも聞かれる中で、日銀が付利を下げる場合、その意図は円安効果を狙ってのものと受け止められやすい(実際に外為市場に及ぼすことができる円安効果は小さいと思われるが)。先日のG7、G20でさらなる露骨な円安誘導は牽制されてしまっただけに、新日銀総裁が付利を下げようとする場合は、そういった数々の軋轢を乗り越えていく必要があるといえる。

つまり、新総裁が行える金融緩和策には、どれも悩ましい問題が付随してくるのである。

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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