高校野球は甲子園球場を「無料」で使っている 放映権収入もナシ、驚きの「ビジネスモデル」

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観客を魅了する「汗と涙と土にまみれた全力プレー」の背後にあるビジネスモデルに迫る(写真: 宮坂由香(旧・みやさこ) / PIXTA)
大会期間中、全試合がNHKで生放送される夏の甲子園。その放映権料は、なんと驚きの「0円」だという。半月にわたる球場の使用と運営には多額の費用がかかりそうだが、一体どうやって賄っているのだろうか。また、あえて無料としている理由は何なのだろうか。『高校野球の経済学』を上梓した中島隆信教授が、高校野球の「ビジネスモデル」の秘密を明らかにする。

 

「甲子園球場はチケット完売のため入場できません」

大会期間中の朝の阪神電鉄梅田駅でしばしば耳にする場内アナウンス。当日券を求めて球場に向かおうとする人たちへ高野連からの情報提供である。

にもかかわらず、甲子園球場前の高架下広場には当日チケットを求める長蛇の列ができている。これは、第1試合に人気カードが組まれた日は第2試合以降に空席の出る可能性があるため、チケットの再売り出しを待っている人たちなのだ。

2015年の選手権大会期間中の入場者数は86万2000人。これまでの最多である1990年大会の92万9000人には及ばないが、それでも歴代5位の数字である。早実の清宮選手や関東一高のオコエ選手らの活躍が多くの観客を引きつけた結果かもしれない。

これだけの観客を動員しながら、高野連の入場料収入は7億4000万円程度に過ぎない。観客ひとりあたりにするとたった860円ほどである。なぜこのようなことになるのだろうか。

2万席ある外野席が無料!

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その理由は入場料にある。甲子園大会のチケット代はきわめて安く設定されている。バックネット裏中央特別自由席は2000円だが、内野特別自由席は1500円(こども600円)、応援団が陣取るアルプス席は600円、全部で2万席ほどの外野席にいたっては無料である。

経済原則に従うならば、需要超過は価格上昇によって解消される。ところが主催者である高野連は値上げには後ろ向きだ。

まず、外野席の有料化についてだが、アルプス席が600円であることを前提とするならば400円程度の料金設定になるだろう。しかし、それで1日あたり800万円の増収が見込めたとしても、チケットの印刷代やもぎりの人件費などを考えると採算がとれないというのが高野連の見解である。

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