トランプ大統領でイエレン議長「クビ」の理由 歴史から学ぶ米大統領とFRB議長の関係

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そしてブッシュ大統領は共和党からグリーンスパン議長の後任を選んだが、その時に有力とされたのが、ハーバード大学のマーティン・フェルドスタイン教授とバーナンキだった。結局ブッシュ大統領はバーナンキを任命。その理由は、バーナンキは政治色が薄く、いざという時に、政治の命令を聞かせやすいという計算があったという説が有力だ。(フェルドスタイン教授がAIGのボードにいたことは、表向きの不採用の理由)

このあたりは、政治色が強かったグリーンスパンが、自分の父親に対して行った政策が背景にある。1990年代前半、父親のGHWブッシュ大統領は再選を控えていた。そこで共和党のレーガンに任命されたグリーンスパン議長の再任を早々に決め、1991年初頭の景気刺激策と抱き合わせで、議長に利下げを促したとされる。

ところが、グリーンスパンは頑として利下げをしなかった、(FFレートは3%でとどめる)。結果に自分の父親の再選は失敗。逆にそこでのグリーンスパンの我慢は、クリントン大統領の経済政策を助けることになった。その恩を感じた?クリントンは、民主党大統領にもかかわらず、そのまま共和党のグリーンスパンを再任した。

この経緯を見ていた息子のGWブッシュ大統領は、いざという時に自分の意のままになりそうな学者肌のバーナンキを選んだとしたら、それはニクソン大統領を参考にしたからだろう。

「行動する勇気」か「行動しない勇気」か

ニクソンはケネディーと争った最初の大統領戦で(1960)惜敗した。彼は、敗因について、自分が副大統領だった時、(アイゼンハワー大統領)景気が後退していたのに、当事の議長のマクチェスニーが金利を下げなかったことが一因と考えた。だから大統領になったあとの議長任命では自分の言うこと聞きそうな、政治色の薄い学者のバーンズを任命したというのが定説だ。GWブッシュ配下のラムズフェルドやチェイニー副大統領は、ニクソン・フォード政権下で経験を積んでいる。

そして予定通りバーンズはニクソンの言いなりだった。おかげでニクソンの再選は圧勝。しかし、バーンズはその後ハイパーインフレで、FRB議長としては最低の烙印をおされた。

1980年代、そのインフレを引き受けたのがポール・ボルカーだ。現在ボルカーは歴代最高か二番目という評価だが、ボルカーの金利引き上げの結果、1990年代に不動産不況が起こり、その割を食ったのがGWHブッシュだった。

そこを我慢したグリーンスパンは神格化され、その後始末のリーマンショックを「行動する勇気:courage to act(バーナンキの自叙伝)」で克服したとされるのかバーナンキだ。彼は日本の金融政策の先生になっている可能性がある。ただ個人的には、ここからの中央銀行は、初期のグリーンスパンのように、「行動しない勇気」があってもいいと思う。

(一部敬称略)

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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