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1割の異才をリーダーに育て
Brutalなグローバル競争を勝ち残る 三谷 宏幸 ノバルティス ファーマ株式会社 代表取締役社長

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1割の異才・異能を育てる

松下 そういったリーダーシップを持った人材はどうやって育成すればいいのでしょう。

三谷 それは自分でもよく考えますが、難しいですね。私は2週か3週に1度「ラウンドテーブル」と称して社員と討論する機会を持つようにしています。これをはじめとして、人材育成のプログラムというのはいくつか作っています。ただ、問題はそれで、本当に人材が育つかどうかですね。たとえば「お医者さんの前では薬の説明はこんなふうにしなさい」というような知識系のことを教えるのは簡単です。難しいのは知能系のことをいかに教えるかということです。

松下 知能系ですか。

三谷 矛盾するようですが、チームの6割は上司の言うことをよく聞く標準的な人間が欲しいけれど、1割はやっぱり異才というか、周りと違う人材が欲しい。今の学校教育はその6割を育てるのは比較的うまいけれど、残りの1割を育てるのはうまくない。でも異才を育てていかないと、このBrutalな現代の状況は乗り切れません。過去の経験がまったく利かない場面が出てきたときに普通の人が思いつかないような方法で状況を突破する、思考能力のある異才が1割は欲しいですね。

松下 三谷社長はどうやって、1割の絶滅危惧種を保護されているのでしょうか(笑)。評価を厳密にしてスクリーニングの回数を多くすると、異才がはじかれてしまうような気がします。 

三谷 手厚く保護しているんです(笑)。私はいつもこれはと思う人は、ハンドピックするようにしています。そうすると必ず、「不公平じゃないですか、三谷さん。ほかの人たちは三谷さんと会ってないんだから」と言われます。でも何もしないよりは何かすることのほうが意味がある。何もしないと、異才たちは「結局、この会社は毎回同じことをしっかりする人だけが大事なんだ」としか思わない。

松下 なるほど。ただし異才と異分子はちょっと違うと思うのですが、そのあたりの見極めはどうしていらっしゃるのですか。

三谷 時々私自身も間違えます(笑)。みんな最初は異才に見えるんですよ。でもなかには異分子もいます。

松下 異分子の定義は何でしょうか。価値観が会社と合わないとか?

三谷 難しい質問ですね。ちょっと話がずれるかもしれませんが、私は昔、川崎製鉄にいたとき、課長に「三谷、俺は今度の人事でどこに行くんだ」と聞かれたことがあるんです。私は人事の人たちと仲が良かったから知っているだろうと思われた。「知りませんよ」「そんなことを言わずに教えてくれよ」という問答があったんですが、その人が面白いことを言った。「三谷、1年後の人事なんかわかっても全然価値がないんだよ。1週間後の発表を事前に知っていることがいちばん意味があるんだ」。異才と異分子の違いもそれと似たところがあって、10年後にようやく花が開いても困るのです。だから私の定義としては、異才とは、刺激することで2~3年後に新しい変化をもたらしてくれる人たちです。仮に10年後にiPadが作れる人だとしても、それは私にとっては異分子ですね。

松下 それでは自分は異才でありたいと思う若い人は何から始めれば。

三谷 うちの会社の例でいいますと、ABC3つの製品があって、それぞれの売り上げ目標があり、合計の売り上げ目標があるとします。バランスの取れた人間は、ABCのそれぞれの製品をプラス5%売る。結果的に売り上げ全体もプラス5%になるのですが、私はそれを異才だとは思わない。異才というのは全体の売り上げを10%プラスにする。でも内訳を見ると、C製品がまったく売れていない。AとBが60%余計に売れるという売れ方をしている。まったく違うアプローチをしているからそんなとんでもない売れ方をする。だから異才なのです。でも本当に人と違う人間でいようと思うなら、当然リスクも冒さないといけない。失敗すれば追い詰められます。皆さんに申し上げたいのは、本当にそれだけの自信や覚悟があるかどうか、自分に尋ねた上で異才という存在にチャレンジしなければならないということです。チャレンジとは、100の売り上げに対して5%プラスすることではないんですよ。1つの製品だけ60%プラスするようなことであって、それは、相当な背伸びをすることなんです。でもそれが実は新しい自分の発見につながるのです。何とか状況を乗り越えていくうちに、自分のキャパを広げることができるのです。私は異才というのはそういうことができる人だと思います。

松下 ありがとうございます。最後に、グローバル経営戦略というのは大きなテーマです。特に2013年から2~3年先を見越したときに、どういった潮流があるでしょうか。

三谷 グローバル競争が製薬業界に限らず、一般的にどこでも起きるようになってきたのは確かですね。かつては日本の一部の産業だけがグローバル競争にさらされていましたが、今は大半がさらされています。さらにそれが加速化していくのは間違いない。業界全体のビジネスモデルを変えるような動きがあちこちで起こってきているのは確かです。この2~3年、さらに次の2~3年と、どんどん変化のペースが加速するわけですから、そういう状況に太刀打ちできるような経営をしていかないと駄目ですね。「5年前に決めたことだから」といってそれを今年も金科玉条のように守る経営は経営じゃない。でも私は悲観しているわけじゃなくて、トヨタもホンダもしっかりグローバル化に成功していますよね。そういう会社はそれなりの勝ちパターンを持っている。ですから日本人がグローバル経営をできないわけじゃないと思います。

(10月11日、港区の西麻布三井ビルにてインタビュー)

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