財政政策は「成長押し上げ」を最優先すべきだ 事業規模よりもメニューと支出金額が重要

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金融市場の値動きを見ると、真水6兆円の報道があった26日、円安基調にあったドル円が1ドル104円台まで円高に振れ、日本株市場も大きく下げた。その後、27日の安倍首相の発言で105円台に円安に再び動くなど、一喜一憂している。報道に振り回され、財政政策の効果を筆者を含め金融市場は計りかねている。

2013年に発動したアベノミクスの原動力は、保守的な姿勢を貫き長期デフレを半ば放置していた金融政策を、政治のリーダーシップで大きく変えたことだった。同様に、官僚組織の無謬性を乗り越え政治主導で財政政策を拡大させれば、金融政策の転換同様に金融市場の価格形成に大きく影響するだろう。

なお、アベノミクスの第二の矢である機動的な財政政策について効果は出尽くしたとの見方も多い。確かに、2013~2014年前半まで公共投資が増えた分は成長率を押し上げた。ただ、2014年の8兆円の大規模増税によって財政政策全体でみれば、第二の矢は2104年から逆噴射に転じている。

財政政策の再点火は妥当

8兆円規模の消費増税のインパクトが甚大だったことに加えて、公共投資主導で歳出拡大を図ったため、波及効果が一部業種にしか及ばなかった側面もある。誤解のないよう申し上げたいのは、筆者は国土強靭化の名のもとの公共投資拡大は必要と考えていない。逆噴射した第二の矢を再び成長率を押し上げる方向に、財政政策を転換させることが望ましいということである。

インフレ率が再びゼロ近傍まで低下するという2013年と同様の経済状況を踏まえれば、総需要を安定化するために財政政策を再点火するのは経済理論的には妥当である。この点は、クルーグマン、スティグリッツなどの著名な経済学者が強く主張していることでもある。

また、筆者は根拠が薄い「金融政策の限界論」には懐疑的だが、金融政策の景気刺激効果を高めるための財政政策の後押しは効果があると考えている。繰り返しになるが、単に財政支出拡大といっても、ボトルネックが問題になっている建設業などに対して公共投資を増やしても、資源配分が歪む弊害が大きい。

防災などのために必要なインフラ投資を積極的に増やすことは望ましいが、それだけでは成長押し上げ効果は限られる。大規模な歳出拡大とともに、家計・企業の所得押し上げをもたらすメニューをそろえることが、財政政策転換によるアベノミクスのギアチェンジになる。来週判明予定の経済対策の中身をみるまで、円安転換の持続性は予想しがたい。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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