奇妙なアマゾン新社屋、なぜこうなった? シアトル中心街に現れた未来の温室

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ガグリオードはヘルメットをかぶり、注意深くワイヤ類や足場を避けながら、巨大なコンクリートの塊を調べていた。この壁にはいずれ植物の入ったポケットがたくさん入ったファブリックで覆われることになる。屋根のガラスパネルは一部取り外し可能で、そこからクレーンでイチジクの木をはじめ40〜50本の木をスフィア内に植えることになる。「実際にここに来て、最終的にどんな温室になるかイメージがつかめるようになってきた」。

スフィア内にはツリーハウスという複数のミーティングルームのほか、グラグラ揺れる吊り橋も設置される予定だ。「アマゾンには、『楽しい場所にしてくれ』と言われている」と、建築士のアルバーダは言う。

とはいえ、温室の中にワークプレースを設けるのはそう簡単ではない。植物のために十分な湿度を確保する必要があるが、コンピューターが汗をかいたり、スタッフが暑くてじめじめしていて仕事どころではないと感じてはいけない。

そこで日中はスフィア内の気温を22度、湿度は60%に維持し、夜は気温を平均12.7度、湿度は85%に調整することになっている。ガグリオードによると、これは雲霧林の植物にとって最適な環境だ。

ワークプレースに緑があると、仕事の質が高まることを示す研究結果は増えている。オレゴン大学のアイハブ・エルゼヤディ准教授(建築学)は10年ほど前、仕事中にグリーンが見える人は、そうでない人よりも病欠が20%少ないという研究結果を示した。ただしその因果関係ははっきり証明されていない。

エルゼヤディは、アマゾンのスフィアを興味深い試みだとしつつ、自分のデスクからつねに植物が見えるのと同じくらい効果的かどうかは首を傾げる。

「2つの大きな仮説に莫大な賭けをしているようなものだ」と、エルゼヤディは言う。「まずスタッフは、週に1度でも仕事を中断してスフィアに行き、自然浴的なことをするだろうか。またそれが、本当に彼らのストレスレベルに影響を与えるだろうか」。

ただ、アマゾンは職場に細かいルールがあることで知られるから、そのストレスから解放されることは、確かに効果的かもしれない。

野生ではもう見られない植物たち

シアトル郊外にある、アマゾンの「温室」。ここでエキゾチックな植物を育てている(撮影:Ian C. Bates/The New York Times)

スフィアに植物を移す作業が始まるのは来年から。それまでガグリオードは、アマゾンがリースしている郊外の温室で、木々の世話を続ける予定だ。

彼はキソウテンガイ(葉が2枚しかないナミビア産の植物だ)の前で立ち止まると、「世界一醜い植物だな」と笑った。だがその言葉は、褒め言葉に聞こえるくらい愛がこもっていた。また、最近は東南アジア産のベゴニアに夢中であることを興奮気味に話してくれた。

アマゾンがここで育てている品種の多くは、野生では絶滅寸前か絶滅状態にあり、世界中の植物園や大学から集めたものだ。かつてアトランタ植物園で働いていたガグリオードは、こんなに珍しい植物をたくさん集められる機会はめったにないと言う。

「私はいわば植物キュレーターだ。いろいろな科の植物を集めて増やせるなんて夢みたいだよ」

(執筆:Nick Wingfield記者、翻訳:藤原朝子)

© 2016 New York Times News Service

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