株式市場は「チャイナショック前」と似ている 皆が楽観的になっているときこそ注意が必要

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それはともかく、頭を痛めているのは日本政府・日銀だけではないだろう。米国も現在のドル高の対応に苦慮しているものと思われる。ドルの総合的な価値を表す「ドル指数」は、97を超え、直近高値を更新している。7年ごとに上昇・下落を繰り返すサイクルが鮮明なドル指数だが、今年は下落、つまりドル安に転換する年だった。

再びドル高がリスク要因に浮上へ

確かに、年初からは徐々に水準を切り下げる動きが鮮明だった。しかし、これが反転し始めたのが5月末であり、さらに上昇をより鮮明にしたのが英国のEU離脱決定後である。このドル高基調が改善されなければ、いずれリスク要因として市場は無視できなくなってくるのではないかと考えている。

ドル高になれば、前回の本欄でも解説したように、ドル建て原油価格の下押しにつながる。原油価格が下落すれば、石油関連株に下押し圧力がかかる。またドル高はドル建てで取引されるコモディティ全般に下押し圧力となる。資源関連株が下落すれば、米国株への影響は少なからず出てくるだろう。また、ドル高は新興国通貨の下落につながる。これも市場リスクとしては、リスクオフ方向に作用することになる。この点を市場が重視していないのは、米国株が高値を更新し、楽観的な見方が蔓延しているからなのだろう。

以前にも解説したように、現在の市場構造においては、「ドル高=円安にならず円高どまり=資源国・新興国通貨安」が最悪のパターンである。いまはこれに「欧州通貨安」が加わった。

この関係が、徐々に市場にダメージを与える可能性があることを、市場はほとんど織り込んでいないだろう。このように考えると、FRBが利上げを敢行することは、とてもではないができるはずがない。自らドル高を誘導するような政策を取る意味は全くないといってよいだろう。利上げをせずとも、ドル高を強いられる現状において、米国にドル安に転換させるすべがあるのか、この点にも注目していくことになるだろう。

米国市場では、VIX指数(シカゴ・オプション取引所が作ったボラティリティインデックス=恐怖指数)が一時11台にまで低下するなど、市場が楽観した状態にあることを示す指標が相次いでいる。

この水準をみると、昨年の8月を思い出す。8月5日に一時10台を示した後は、徐々に水準を切り上げ、最終的には「チャイナショック」をきっかけに、一時53台にまで急騰した。いつものことではあるが、VIXの水準が低いことは、将来の高ボラティリティと株価の大幅な調整の可能性を示している。

そして、VIXが急騰するときは、決まって株価が急落するときである。VIXがこのような低水準にあるときに、上昇する株価をみて上値を買い進むのは、決まって楽観的な投資家である。無論、このような投資行動が大きな成果を上げることも少なくない。現在の米国市場では、過去最高値を更新する中でも、市場には過熱感はないとの指摘も多いようである。

しかし、前述のように、どうしても原油価格の低迷が気にかかる。さて、今回のケースはどのような結果になるか。FOMCを経た米国株の動向をまずは確認したいところである。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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