夏本番前に夏モノなくす「セール前倒し」の怪 三越伊勢丹のみ7月1日の一斉開始に異議

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駅や地下鉄のセール告知には力を入れた

百貨店の仕入れ方式は、メーカーから商品を借りて、それを客が購入すると同時に売り上げが立つ「消化仕入れ」。ここにおいて、品ぞろえや価格の主導権はメーカーの側にある。結果、百貨店もメーカーの事情を汲む必要があったというわけだ。

ただ1社、7月13日からセールを始める三越伊勢丹は、早くからセールを始めるブランドの店頭から、値下げ対象商品を除くことで、同じ商品でほかの百貨店との価格差が出ることを防いでいる。さらに、カード会員など得意客向けには、13日より前から限定セールを行うことでつなぎ留めもしてきた。7月1日から、駅や地下鉄の電子公告などで、積極的にセール予告もしている。

セール後ろ倒しでも前年並みの売り上げ確保

その結果、少なくとも都心部では、セール後ろ倒しのマイナス影響はそこまで出ていない。13日の開店前には、小雨が降るにも関わらず、新宿伊勢丹本店の前には約6100人の客が並んだ。足元の販売状況も上々で首都圏の店舗では、前年並みの売上高が確保できている。

さらにセール時期でも定価の商品が売れ、セール品の占めるシェアは年々低下している。利益を減らさずに売上高も確保できるという好循環が生まれつつあるのだ。

インバウンド需要がはく落し、大手が軒並み前年割れという現在の百貨店業界。国内顧客の百貨店離れを食い止めないと後がない状況だ。セール期間を短くした三越伊勢丹が健闘しているとすれば、7月1日一斉スタートで同調した他社の胸中は複雑だろう。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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