都知事選びの「判断基準」、どこに置くべきか 政治家にとって「コミュ力」は重要な能力

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日本のリーダーのコミュニケーションの大きな罠はこの「Meイズム」だ。私のことを知ってほしい、私の言うことを聞いてほしい、そんな「自分主役」のコミュニケーションが大半だ。コミュニケーションの基本のき。それは「主役」は聞き手である、ということだ。相手が何を聞きたいか、悩みは何か、何を知りたいのか。何をしてほしいのか。そんなことはお構いなしに、自己アピールや説教だけをねじ込もうとしても聞き手には絶対に刺さらない。

コミュ力で「リーダーの資質」を測る

皆さんはそんなつまらない演説に聞き飽きて、選挙などどうせ「地盤」「看板」「鞄」や組織票、しがらみなど、我々の意思なく決まっていくもの、とあきらめてはいないだろうか。しかし本来、選挙とは候補者の資質やポテンシャル、志、政策で、有権者が自分の意志で選び、決めるものであるはずだ。そんなわけで、コミュ力で「リーダーの資質」を測るチェックリストを作ってみた。投票に値する人がいない、とあきらめてしまう前に、是非、一度、公約を読み、演説や発言を聞きながら、○×式や5段階評価でチェックしてみてはいかがだろうか。

候補者の「リーダーの資質」チェックリスト
<候補者の資質>
 • リーダーとしての品格・風格が感じられるか
 • これまでの実績は評価できるか
 • 信頼に足る人物か
<メッセージ(公約・政策・演説の内容など)の論理性>
 • 妥当な内容か。実現性はあるか
 • わかりやすく、論理的に説明できているか
 • 納得感があるか。腑に落ちるか
<心の結びつき・共感>
 • 心情的なつながり・絆を感じるか
 • 応援したい気持ちがわくか
 • 志、情熱に心動かされるか
 • つい惹き込まれてしまうか
(出所)Glocomm作成

 

このリストは、アリストテレスが説いた説得の三つの要素、ethos(エートス、話し手に対する信頼感による説得)、logos(ロゴス、論理による説得)、pathos(パトス、聞き手の感情への訴えかけによる説得)に基づくものだが、この中で最もパワフルなのはパトス、感情訴求だ。候補者の感情がシンクロするように乗り移ってくるか、その訴えにまるで内臓をぎゅっとつかまれたような気持になるか、共感できるか…。そんな自分の直感も重要な判断材料だ。

 

裏を返せば、候補者は、有権者の「はらわた」をガッツリつかまなければいけないということである。リーダーを目指す人にとって、最も大事なのは、支持者や社員などとの間に強い「emotional connection」(精神的、感情的なつながり)を生み出すコミュニケーションだ。そのために、習得すべきコミュ力上達スキル・知識は山ほどあるのだが、書ききれないので、またの機会に。

東京都知事選は31日の投票日まで、残りわずか。折しも、アメリカでも大統領選が盛り上がっている。つい先日の共和党大会で、同党の有力政治家であるテッド・クルーズはトランプの候補者指名に反旗を翻し、激しいヤジを浴びながら、言い切った。「立ち上がり、声を上げ、自分の良心に一票を投じてください」。「良心の向かう先などないさ」と、日本の有権者がしらける気持ちはよ~くわかる。ただ、嘆いていても仕方ない。有権者がリーダーを目指す人々のコミュ力に目を光らせていくことで、もっともっとその声に耳を傾ける、魅力ある、優れた政治家が生まれる素地ができるのではないだろうか。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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