リニア「国家プロジェクト化」は大丈夫なのか 採算や経済効果危ぶむ声も

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旧国鉄時代の轍(てつ)を踏まぬよう、「政府の介入」に対する警戒感が根強いJR東海。財投資金の受け入れは「経営の自由、投資の自主性確保、将来にわたって経営の健全性と安定配当を堅持できることが前提条件」(広報部)と強調している。

大阪延伸の工事を8年も前倒し着工すること自体、人手や工期などに相当の追加負担が発生するリスクがあるという。

一方で、 財投資金投入により自社調達より低い利率の資金借り入れができれば、同社にとって調達コストが低下。メリットを享受できる。

同社の資金計画では、工事進ちょくに合わせ16年以降およそ3兆円程度の長期債務の増加が予定されている。直近発行の同社20年債の利率は0.4%台だが、仮にその金利で3兆円を調達した場合には、20年で2400億円の利息がかかる。仮にゼロ金利で財投融資が受けられれば、その分が削減できる。

現在、自民党内ではリニア事業に対する3兆円規模の財投融資の金利を0.3%前後を軸に検討している。その場合、20年間で1800億円の利息となり、自己調達と比べ利息支払額は600億円の削減となる。

政府とJR東海の間で、経営の自主性確保とコスト削減メリットをめぐり、交渉が始まるのはこれからだ。

大阪勢のロビー活動が影響を与えた

また、リニア新幹線の工事前倒しが安倍政権の目玉政策に浮上する過程で、大阪圏の政治・経済団体のロビー活動が、大きな影響を与えたと関係者は口をそろえる。

「JR東海が自力で行うとしていることも勘案しつつ、要望を受けて対応を考えていきたい」ー─。世耕弘成官房副長官は2014年当時、関西経済連合会のリニア新幹線「国家プロジェクト化」と大阪・名古屋同時開業要望に対してこう語った。

JR東海が自己負担を原則に進めてきた計画に、長年距離を置いてきた政府が関与を強め始めたのは、このころからだ。

ロビー活動の主役は「おおさか維新の会」(現政党名)の松井一郎幹事長と橋下徹代表(ともに当時)だった。

両氏は大阪府知事、大阪市長として、関西経済団体とともに大阪・名古屋同時開業に向けた協議会を設立。自民党の大阪府選出議員らも財投資金での支援、税制優遇など要望策をまとめた。さらに和歌山県選出の二階俊博総務会長の働き掛けも大きかったと関係者は語る。  

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