JR東日本特急から「自由席」が消えているワケ 「全指定席」化で車内改札などコスト高縮減へ

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一方、在来線では、やはり通勤に利用されることが多い首都圏近郊の短距離特急列車に、全車指定席化の動きが現れている。上野・新宿発着の高崎線特急「あかぎ」がその手始めで、従来は自由席主体の編成であったものを、2013年にまず普通車の座席指定車を設定。同時に「えきねっとチケットレスサービス」も導入した。

これを拡大する形で2014年3月15日のダイヤ改正で、全車指定席化。愛称を「スワローあかぎ」としたのである。

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常磐線の特急「ひたち」「ときわ」に導入された、指定席特急券発売状況を表すランプ(筆者撮影)

さらに、2015年3月14日のダイヤ改正で「上野東京ライン」が開業したのを機に、品川までの乗り入れを開始した常磐線特急(ダイヤ改正時に「ひたち」「ときわ」と改称)が全車指定席となっている。

この列車では、座席上に指定席特急券の発売状況を示すランプを新設。赤色は空席、黄色はまもなく到着する駅からの指定席特急券が発売されている。青色は、指定席特急券発売済みの区間内であることを表すようにした。

これは、自由席特急券に代わって、乗車列車と乗車区間のみを指定した「座席未指定券」が発売されるようになったことに対する措置でもある。この座席未指定券は指定席特急券と同額であり、かつ座席の保証はない。もし車内で車掌から購入した場合は、事前に駅で購入した場合より割高な料金が適用される。つまり指定席特急券より不利な条件であるにもかかわらず高額、というものだ。座席未指定券は「スワローあかぎ」や「成田エクスプレス」にも、追って導入されている。

他方で、えきねっとチケットレスサービス利用の場合は、導入当初、割引キャンペーンが実施されていた。そもそも、特急料金自体もこうした全車指定席の列車では従来より引き下げる傾向にある。

今後の流れは全車指定席化?

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全車指定席化の波は首都圏の他の方面へも波及するか。写真は「館山若潮マラソン」の際に両国〜館山間に運転された全車指定席の臨時特急「さざなみ91号」で、すでに臨時列車では例が現れている(筆者撮影)

こうした施策は、明らかに指定席への誘導を図ったものだ。さらには、自由席中心から全車指定席制への経過措置と見ることもできるだろう。

残る首都圏の特急列車としては、房総方面、中央本線方面、東海道本線方面がある。これらの列車では、まだ国鉄時代と変わらず、指定席と自由席が1本の列車内に設定されているが、いずれ、高崎線や常磐線と同じような方向へ進むものと思われる。

すでに成田空港から東京・品川を経由して横浜・大船へと直通している「成田エクスプレス」の一部(夕〜夜間に東京を通る列車)で、えきねっと利用の場合、東京→大船間では指定席特急券を割り引くといった、キャンペーンも実施されたことがある。通勤客向けの利用促進を兼ねたものであるが、房総方面、東海道本線方面の特急列車の全車指定席化への布石でもあるだろう。

ずいぶんと、回りくどいやり方のようにも思えるが、それだけ長年に渡って定着している「自由席」という制度は、なかなか止めづらいものがあるのだ。それもまた、国鉄が残した遺産であるのかもしれない。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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