高値更新の米国株の重しとなる「ドル高」基調 原油相場も将来の産油量増加が懸念材料に

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リグ稼働数は5月29日で終わる週の316基を底に徐々に増加し始めており、最新の稼働数は357基にまで増えている。この過程で、原油価格は頭打ち傾向が鮮明になり、6月9日の51.67ドルを高値に徐々に水準を切り下げている。リグ稼働数の増加に合わせて見事に価格は下落に転じている。このような動きは、以前にもみられている。

昨年6月28日で終わる週のリグ稼働数が628基まで減少した後、増加傾向が2カ月ほど続いた。それまでのリグ稼働数の減少を受けて、60ドルを回復していた原油価格は、その後再度下落に転じている。当時はその後、原油生産量が減少傾向を続けたものの、価格の下落は止まらなかった。今回は、リグ稼働数の減少に伴い、産油量は順調に減少したが、50ドルを回復してからは上値が明らかに重くなっている。

弱さが見え隠れする原油相場

この背景には、原油市場に加え、ガソリン在庫の増加傾向も大きく影響していることは間違いない。夏のドライブシーズンにある米国では、この時期はガソリン需要が増加し、在庫が減少する。しかし、今年は在庫の積み上がりが顕著であるだけでなく、価格がヒーティングオイルよりも安い水準にとどまるなど、きわめて異例の状況にある。5月末のメモリアルデー以降の原油相場は、それまでの年初からの値動きを踏襲し、年末までその動きが続くことが少なくない。今年は、年初から順調に上昇していたため、このまま年末には60ドルに達するとみられていたが、この時期に上昇しきれないところに、現在の原油相場の弱さが見え隠れする。

過去にも、年初から上昇基調を続け、7月中旬に高値をつけたことがある。2008年である。当時は中国・北京で五輪が開催されることや、新興国経済の拡大に伴う原油需要の増加が材料視され、原油価格は過去最高値を更新した。しかし、7月13日にWTI原油は147ドルの高値をつけたあと、ほぼ一貫して下げ続けることとなった。

今回の相場展開は、当時とはまったく異なるものの、日柄的にも7月中旬に高値を付けていることから、このまま上昇に転じることができなければ、これが株式市場にも影響する可能性がある。前述のように、ドル高基調が強まれば、ドル建て原油相場は上値が重くなることも考えられる。需給・為替の両面から、原油相場は売り圧力が強まる可能性がある点には要注意であろう。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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