「睡眠薬に頼る人」に伝えたい身体へのリスク 逆に不眠を呼び、最悪は認知症にもつながる

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ここで離脱症状のひとつに不眠があることが大きな問題です。これは反跳性不眠といって、睡眠薬を使って眠れるようになっても、いざ薬を中断すると逆にひどい不眠症に悩まされることがあるのです。睡眠薬を中断する際は漸減法といって用量を徐々に減らすなど注意深く減らす必要があります。

使用歴が長いほど、認知症になるリスクが高い

そして今後いちばんの問題となりそうなこととして挙げられるのが睡眠薬による認知機能障害の合併です。

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与されている高齢者は、投与されていない高齢者と比べて43~51%ほどもアルツハイマー型認知症になりやすく、ベンゾジアゼピン系の使用量が多く、使用歴が長いほどアルツハイマー型認知症になるリスクが高くなることをSophie Billioti de Gage氏らが、2014年9月にBMJ誌にて報告しました。私がこれまで多くの高齢者を診療してきた中でも、認知機能障害のある方に多種・多用量のベンゾジアゼピン系使用歴のある確率が優位に高いのも事実です。

また睡眠薬には「脱力」「ボーッとする」「注意力・集中力の低下」などの副作用があるため転倒のリスクも高まります。骨密度の低下した高齢者では転倒によって、骨折を発症し、寝たきりになってしまうことも考えられます。

かといって睡眠薬を急に止めてしまうと反跳性不眠で眠れなくなってしまったり、眠れない日が長く続くと、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高まったり、うつ病や不安障害といった精神疾患を誘発したりとさまざまな問題点があります。

それでは睡眠薬を用いずに根本的に不眠を改善し、良質な睡眠をとるための方法はあるのでしょうか?

それは自律神経のバランスを整えることです。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、交感神経は体を興奮状態に持っていき活発に動かそうとする神経です。一方、副交感神経は体をリラックスさせ、休ませようとする神経です。

現代社会、特に都市部では、慌ただしい生活の中で交感神経優位の体になってしまっていて、夜寝るとき、つまり体をリラックス状態にしたいときに副交感神経がうまく作用できない体の人が多いと思われます。

まずは、規則正しい生活です。眠れる、眠れないに関わらず決まった時間に布団に入り、決まった時間に起床することが大事です。ちなみに寝だめはホルモンバランスが崩れるためかえって良くありません。また、適度な運動を毎日行うこと、毎日寝る前に適度な温度(38℃~40℃程度)のお湯にゆっくり入浴し体を温めることなども重要です。寝酒や寝る直前の食事を避けましょう。生活のリズムを適切に整えることが、快適な睡眠には最も近道なのです。

木村 哲也 安眠専科ドクター/Neo Doctors代表

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きむら てつや / Tetsuya Kimura

安眠専科ドクター。Neo Doctors代表。東京ひざ関節症クリニック医師。元 日本在宅クリニック青山診療所院長。日本整形外科学会認定専門医。日本再生医療学会員。

平成19年 北里大学卒。横浜南共済病院スポーツ整形外科、神奈川県立がんセンター骨軟部腫瘍外科、横浜市立大学附属市民総合医療センター整形外科などに勤務。

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