共和党の方針転換で3月危機への警戒和らぐ 景気・経済観測(米国)

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先行きをみるうえでは、政治を取り巻く空気が徐々に変化していることにも注意が必要だ。

共和党の方針転換が意味するもの

一つのきっかけが、債務上限の引き上げ問題である。当初、債務上限の引き上げをテコにさらなる歳出削減を求めるとしていた共和党だが、1月中旬に開かれた指導部の会合を契機に、その方針を大きく転換した。

事実、1月23日には自ら債務上限の適用を5月18日まで免除する法案を下院で可決(同法案は1月31日に上院で可決)し、政府債務のデフォルトに対する懸念が大幅に後退したのは、周知のとおりである。

共和党が方針転換した背景には、来年の中間選挙や2016年の大統領選挙を見据えた実績作りを進め、有権者の広範な支持を獲得したいという思惑があるようだ。専門家の間では、こうした現実主義への転換を、民主党との超党派的な合意形成に向けた第一歩とみる向きも少なくない。

もちろん、財政赤字の削減をめぐっては、歳出削減を主張する共和党と、歳出削減もさることながら、増税も不可欠とする民主党との溝はいまだに深い。加えて、3月1日には歳出の強制削減、同月27日には暫定予算の失効という期限が控えており、先行き不透明感は依然燻っている。

しかし、一方で無用な経済混乱を回避したいとの思いは双方共通である。財政問題の抜本的な解決は容易ではないが、共和党の方針転換を受けて、対応策を真摯に協議しようとの機運も高まっている。当面の危機を回避するとともに、議論の時間を確保するために、問題をひとまず先送りすることで合意に至る可能性は十分にあるとみてよい。そのため、上述した財政の「3月危機」に対する市場の警戒度合いも、足元では相当程度和らいでいるようだ。

2月12日には、オバマ大統領の一般教書演説があり、その後、予算教書の発表を受けて、いよいよ財政協議が本格化する。共和党の方針転換が協議の行方にどのような影響を与えるのか、今しばらく注目する必要がありそうだ。

服部 直樹 みずほ総合研究所エコノミスト

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はっとり なおき

2009年神戸大学経済学部卒業後、みずほ総合研究所入社。12年11月よりニューヨーク事務所駐在。米国担当エコノミストとして、雇用動向や個人消費、住宅市場、金融政策などの分析に従事。

 

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