ヘリコプターマネーは、どうして危ないのか 金融政策は物価をコントロールできなくなる

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かつては財政健全化の必要性を説いていた黒田東彦総裁も「具体的な意見を申し上げることは差し控えたい」(6月の定例会見)と発言のトーンが変わってきた(撮影:梅谷秀司)

しかし、後者では中央銀行による財政赤字ファイナンスが発生し、中央銀行は結局財政に追随して金融政策を決定せざるを得なくなる。どんなに中央銀行の独立性を与えられていたとしても、中央銀行は財政破綻を回避せざるを得ず、結果的に財政状況が物価を決める状況になる。これを「フィスカルドミナンス」(財政従属)といい、ドイツのハイパーインフレはまさにこれによって起きた。

財政健全化の約束は空文化

ひるがえって足元、日本で起きようとしていることをみると、後者が妥当するように見える。外形的には、日銀が独立して金融政策を決定している(日銀の政策委員会が政府から独立して金融政策の目標と手段を決めている)ようにみえるが、安倍首相の経済ブレーンから、金融政策の動きを予想する発言が出たり、ヘリマネ政策を推奨する発言が公然と飛び交ったりする。その一方、消費増税の先送り決定に象徴されるように、日本では増税は事実上不可能になり、財政健全化の約束は空文化している。

ゼロ金利下では金融政策は有効性を失い、財政政策の出番であるのはその通りだろう。しかし、それが健全財政を続けるドイツではなく、毎年数十兆円を垂れ流し、財政規律のない日本で議論されているのが物悲しい。
日本はまさにフィスカルドミナンスに陥りつつある。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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