至宝アームが陥落!イギリス国民の複雑胸中 数少ない世界的テック企業だったのに・・・

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BBCの著名テクノロジー記者であるローリー・キャスリンジョーンズ氏もアーム社がその独立性を失うことによる衝撃を記している(BBCニュース、18日付)。

アーム社のすごさは「半導体がすべてに組み込まれるなら作る必要はないと考え、設計することが鍵になる点に気付いたことだ」。

5年前、ケンブリッジには3つの英国生まれのテック企業があったという。アーム社に加え、Autonomy(オートノミー)、 ケンブリッジ・シリコン・ラジオ(CSR)だ。2011年、オートノミーは米ヒューレッド・パッカード社に買収され、昨年、半導体メーカーのクアルコムがCSRを買った。「3社の中で最大手で最良のアーム社が日本企業に所有されることになる」。

キャスリンジョーンズ氏は次のようにもコメントしている。ソフトバンクは「良い親会社と言えるのかもしれないーフランスのロボット工学の企業アルデバラン社を買収し、グローバルに著名にしたからだ」。

しかし、「ケンブリッジや国内全体で悲しみは消えないだろう。グローバルな、テクノロジーの巨人を作るという望みがなくなってしまったように見えるからだ」。

英国企業の買い漁りがブームに?

ソフトバンクによるアーム社の買収で、ポンド安を背景に英国企業を買い漁ろうとする動きが出てくることを予期するアナリストもいるようだ。FTによれば、上場テック企業の中ではIQE,、Accesso(アクセッソ)、Telit(テリット)、Micro Focus(マイクロ・フォーカス)、 Imagination Technologies(イマジネーション・テクノロジーズ)などが買収対象になる可能性があるという。

外国資本が英企業を所有するのは珍しくない。テニスのウィンブルドン選手権を例にとった「ウィンブルドン現象」(自由競争によって参入してきた外国企業に国内企業が淘汰されたり買収されたりすること)という言葉が如実に示す。

しかし、昨年末、日本経済新聞社に買収されたFTの場合もそうであったように、英国には自国生まれであることに国民が誇りを持つブランドや企業がいくつかある。「戴冠用の王冠」と呼ばれるアーム社は英国のテック企業の将来にもかかわるという文脈もあって、特にこだわりを感じさせる企業の1つと言えるだろう。

買収交渉は9月に終了する見込みと言われている。ソフトバンクはアーム社の経営陣を変更する予定は今のところ、ないという。

ソフトバンクがアーム社の強みを生かしながら、さらに大きく発展させることで、「ソフトバンクが売却先でよかった」と思われようになることを期待したいものだ。
 

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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