無印良品が中国人の若者を魅了する深い理由 若者が抱える矛盾を解消できる「価値」を提供

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小皇帝であっても、しょせんは資金の出し手である親の言いなりにならなくてはいけない。勉強・進学ための趣味・大学と専攻選び・留学・就職先・結婚相手・子供の世話・子供の進学……親に自分の子供のことまで面倒を見てもらえてありがたいが、それには「自分の意思」を抑制しなければいけない面もある。とはいえ、社会経済の発展・インターネットインフラの進歩で海外との接触が多くなった環境の下で育ってきた若者は、「個性」や普段抑制されていた「自分」を求めるようになった。

味も値段も日本並み、高級ホテルの「午後茶」は都市の若者にとって憧れのスポット。SNSにアップするのもお約束(筆者撮影)

自分の親や周りの人と同じではイヤだ、彼らと逆のセンスや美意識が先進的だと思うようになっている。「欲望や現実の問題に満ちあふれた環境にいる私は私ではなく、欲望から離れた無欲の方こそ『自分』」だと信じようとする。「無欲」のイメージをアピールするようになる。

「カラフルな洋服は原色を組み合わせただけで、雑誌のモデルが着ている洋服とまったく違う」「無印良品のインテリアは見たことがないほどシンプルだ」「台湾女性の歌手の歌はいつも一人寂しく私とぴったり」「白いスニーカーを履くとセンスがよく見える」「かわいい文房具や小さな雑貨で本当に癒やされる」「午後茶でこだわりの茶具を使い、きれいにレイアウトし、写真をアップし、休憩時間を丁寧に過ごす楽しさ」……そんな思いを抱く若者が増えたのだ。

「文青」「小清新」の特徴と行動パターン

ここで、「文青」「小清新」が登場した。

「文青(ウェンチン)(文芸青年の略称)」「小清新(シャオチンシン)」は、以前「小資(シャオジー)(プチブルジョア)」「文学青年(ウェンシェーチンニェン)」と呼ばれていた。文学青年は、1980年代改革開放政策実施の直後に現れた、欧米の文化を崇拝する青年たち。ファッションはもちろん、当時の欧米の哲学・小説・音楽に関する書籍に精通した。彼らは、先進国の偉大なる思想家、文豪、音楽家に詳しかった。80年代の中国では、青年は読書して議論したり、詩や小説を書いたり、撮影をしたり、コーヒーを飲んだり、ディスコで踊ったり、精神的に豊かになる「洋風」「芸術風」なことをしていた。

今の「文青」「小清新」は、30年前と違い、本当の「文学」「芸術」に興味を持たず、「表層的」といえる。女性はオフホワイトのロングスカート、カメラ、スニーカー、布製のバッグ、静かな雰囲気。男性は大きめのフレームメガネ、四角形のリュック、白いシャツにネイビーのズボン、靴下だけカラフル。スターバックスやおしゃれな書店によく出没し、日本の陶芸・食器・ヨーロッパのマイナーなアーティストの展示会にも興味を持つがインスタグラム風の写真をアップすることで満足する。

物を通して「自然、素朴、シンプル、個性的」をアピールするのが彼らの特徴であり、「孤独感」が感じられる。一方、この「孤独感」を積極的にSNSで発信するのも本人である。彼らは、トレンドをフォローしながら、俗世(進学・結婚等の欲にあふれる現実問題)からの脱出をアピールすることを重視している。こだわりのある茶具を使った午後茶、人気の海外ブランドのアイテム、一人旅行用のレトロなスーツケース、失恋の寂しさを象徴するきれいに盛り付けられた一人食……あらゆる普段の暮らしや感想を、積極的に情報発信をする。情報発信の時、「さり気無く」自分のセンスや人気ブランドを出すのもコツのようだ。

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