都会のサードプレイス、バー活用法(上) 実際に飲んでいるのは、あなたによく似たこんな人たち。

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手間ひまかけて、味を守る。蔵の歳時記、秋~冬。

では、実際に、日本酒は、どのような人たちによって、何を守り、どこに工夫をして作られているのか、酒蔵の1年を、私がもっとも見事だと思う東北の銘酒、浦霞(うらかすみ)の営業担当、荻原 浩氏に聞いてみました。

「日本酒のシーズン・インは、秋です。10月に新米が入荷し、仕込み作業がスタートします」

「南部杜氏という言葉は、日本酒に興味のある方なら聞いたことがあるかと思いますが、越後、丹波と並ぶ、日本3大杜氏の筆頭とされる、南部地方(現在の岩手県の一部)で脈々と受け継がれる、洗練された酒造りの技を受け継ぐ職人たちです」

「弊社の先代杜氏の平野重一が、岩手県北上出身の南部杜氏で、その縁で11月になると、地元から杜氏が選んだ方々が、蔵人(くらびと)として、半年の間、酒造りを手伝いに来てくださいます」

※杜氏(とうじ)とは、酒造り全般を指導するリーダーのことで、蔵人は、麹、醪(もろみ)など、各過程をそれぞれ担当するメンバー的存在

 

杉玉に見守られ、酒造りがスタート。

みなさんは、日本酒バーや、ちょっとした居酒屋の正面に小枝を束ねたような、茶色い球体が下がっているのを見たことはありませんか?

「あれは杉玉といいまして、蔵人が、杉の穂先からつくります。通常は蔵の入り口頭上に掲げられ、その年初めての酒が搾られたときに、前年の茶色くなったものと交換します」

つまり、青青とした新しい杉玉は、「今年も酒造りをはじめましたよ」という、蔵からのメッセージなのですね。

 

冬本番は、酒造りの本番。

12月から3月、東北では1年でもっとも冷え込みの厳しくなるこの時期は、日本酒づくりには最適の季節だそうで、「寒造り」という言葉があるそうです。むろん暖房などもっての他。荻原さんのお話を聞いているだけで、ブルブル震えがきそうです。

「日本酒の中でも、特に繊細な吟醸酒は、朝3時頃から作業を開始します。甑(こしき)でふかした蒸し米を、夜明け前のまだ暗闇の中、蔵人たちが蔵の通路に敷き詰め、水分をとばして米を締めます。冷え込みがゆるい場合は、扇風機をあてることもあります」

酒造りの現場では、夏ではなくて冬に扇風機を使うんですね。知りませんでした。

そうやって締めた米を、いったん洗ってから吸水させ、その後水切り作業を行うそうですが、吸水のときはストップウォッチ片手に時間を計るそうです。酒蔵にはいろいろな小道具が活躍しているんですね。

続きは次回またご紹介していきますが、荻原さんのお話で、私がいちばん印象に残ったのは、ある蔵人さんの言葉です。

酒造りの作業には、前述の水切り(ざる振り)ひとつとっても、両腕、両肩、腰を使う重労働。にもかかわらず蔵人さんは、

「朝も早く、厳しい自然環境の中での重労働なので、さぞ苦労が絶えないだろうと言われます。しかし高品質の酒を造ることが目標であり、つらくても、作業のひとつひとつが理にかなっているので、苦労に感じることはない」

と言われたそうです。

実際の苦労よりも、「目標とした味わいが達成でき、お客さまからの『おいしい』のひとことを聞いたときの悦びのほうが、はるかに勝ります」とのこと。

どうです。こんな人たちが、精魂込めて仕上げる日本酒。今夜あたり、一杯やりたくなりませんか?

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