日本人に南シナ海問題が他人事じゃない理由 世界の戦争の歴史から、真の狙いを読み解け

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東シナ海は香港や中国、台湾、フィリピン、インドネシアなどに囲まれた海域(写真:YNS / PIXTA)

南シナ海を巡ってフィリピンが申し立てた国際的な裁判で、国際仲裁裁判所は中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について、「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」などと判断し、中国の管轄権を全面的に否定した。

中国側の「完全敗訴」となった裁定を受けて、中国の劉振民外務次官は7月13日に会見し、フィリピンに向けて「裁定を紙くずと認識して棚上げし、交渉のテーブルにつくことを希望する」と呼びかけている。

これについては、対話姿勢を見せているフィリピンのドゥテルテ新政権との2国間交渉に持ち込んで国際世論を分断し、裁定の履行圧力をかわす狙いがあるともいわれているが、フィリピン側も、自国に有利な裁定を棚上げしてすぐに中国になびくとは考えにくく、裁定を材料にして中国との交渉も選択肢に入れるのだろう。

日本は、南シナ海の領有問題の直接的な当事者ではないが、これは決して他人事とはいえない。こうした現代の難問を理解するには、「地政学」の視点が欠かせない。拙著『世界のニュースがわかる! 図解地政学入門』より簡単に解説していきたい。

地政学とは、ひと言でいえば、「世界の戦争の歴史を知ること」。地球上のどんな位置にあり、どんな地理的危機にさらされ、あるいは地理的好機に恵まれながら発展してきたか。地理的条件によって、一国の危機意識も戦略思考も何から何まで変わる。

今も昔も、土地をめぐって国同士が「押し合って」いる

国家の野心とは「領土にまつわる野心」にほかならず、「より広い土地、よりよい土地が欲しい」という一点に集約する。言い換えれば、国家は「より多くの富」を求めて、領土拡大を渇望してきた。

ただ、地理といっても、より厳密に、とりわけ近代以降でいえば、重要なのは「陸」よりも「海」だ。海を制する海洋国家が、覇権を握るといっていいだろう。海を渡って他国へと進出するためには、「海」を制さなくてはならない。「よりよい、より広い土地をめぐる押し合い」は、舞台を陸から海へと移したのである。

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