家計所得を底上げする「財政政策」が焦点だ アベノミクス「ギアチェンジ」への期待

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なお、筆者は民主党政権時代に、日本銀行の政策が不十分でありかつ時期尚早な消費増税政策を強く批判したエコノミストの1人だが、なんらかの要因でアベノミクスが頓挫し、標準的な経済理論に反した経済政策運営に再び回帰することが、日本経済にとって最大のリスクシナリオと認識している。そういう意味で、今回参議院選挙で与党が勝利して、アベノミクスへの信認が確認されたことは、日本経済及び日本株市場にとってポジティブな要因と考えている。

さて、参議院選挙後の7月11日から、円高が止まりそして年初から停滞していた日経平均株価は急反発している。国民の支持を改めて得た金融緩和強化を主軸として、アベノミクスが再起動するとの期待が背景にある。官邸の意向でバーナンキ前FRB議長が安倍首相と面談したことが、日本銀行の金融緩和強化の期待を高めている。

経済成長率を高める財政政策を

一方メディアの報道では、新たな経済対策として年金受給者の保険料の納付期間を短期間にする、リニア新幹線の開業前倒し、などを含めた経済政策を官邸が指示したとされる。前者の年金受給者の保険料納付期間の変更は、10%への消費増税後に行われる予定だったが、経済状況を踏まえ家計所得を支えることを優先させる方向に、財政政策が転換しつつあることを意味するだろう。

4月11日のコラムでも紹介したが、2013年以降政府による歳出はほぼ横ばいで推移している。公共投資は増えても、景気回復などで社会保障に関する政府支出が抑制され、政府全体では歳出はほとんど増えていない。このため、2015年度までに、税収増加によって財政赤字が大きく縮小したのである。つまりアベノミクスの第2の矢は、消費増税による逆噴射方向に作用していた。第2の矢を再び発動させることは、アベノミクスのギアチェンジになる。

ただ、建設セクターのボトルネックが問題になっている公共投資についてはそれを拡大する弊害が大きい。経済成長率を高める即効性が高い財政政策としては、時限的でかつ大規模な社会保険料免除などが想定される。日本銀行が金融緩和強化を徹底することは大前提になるが、同時に8%への消費増税で失速した家計所得を底上げする財政政策転換が実現すれば、日本経済は再び回復軌道に戻るとみられる。日本の金融市場は、アベノミクスのギアチェンジを期待し始めている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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