政府はどこまでのリスクを考えて物価目標を定めたのか
以上のことを考えますと、安倍政権の主張する「物価目標2%」という数字は、私には理解できません。政府はどこまでリスクを想定しているのでしょうか。「物価目標1%と言うとインパクトが弱いから、2%と言っておこう」というだけの理屈であれば、非常に恐ろしい話です。もちろん、高い期待インフレ率を前提とすることで、景気が継続的に拡大する可能性もありますし、「2%と言っておいたら、1%程度に落ち着く」という意見もありますが、「2%」だけが一人歩きすることのリスクは実は小さくないと私は考えているのです。
問題はまだあります。物価のコントロールに失敗した場合、既発債の価格が下落するだけでなく、新発債の利払い費も上昇するのです。平成24年度の一般会計予算約90兆3000億円のうち、約10兆円が国債の利払い費に計上されています。もし、金利が1%上昇しますと、政府の負債総額は、先にも述べたように約1000兆円ありますから、数年の単位で考えても数兆円程度、中長期的には利払い費も約10兆円増えるということになります。今の景気の状況では、これは大きな負担になります。
さらに言いますと、日本は少子高齢化の影響から、年々赤字国債の残高が増え続けていきます。ですから、「2015年までに消費税を5%引き上げ、その税収増加分である約13兆円をすべて社会保障費にあてる」と言っていても、金利が上がれば、利払い費だけでその額が相殺されてしまいかねませんから、赤字国債の増加に歯止めがかからなくなる恐れがあるのです。そういう意味でも、国債の信任が失われ、国債金利が跳ね上がり、さらに財政が悪化するということにもなりかねません。
安倍政権はこのような点も考えて物価目標を定めたのでしょうか。どこまでリスクを認識しているのでしょうか。私は、政府はなぜ1%でなく2%なのかということをきちんと説明しておらず、非常に不安を感じています。
先に述べたように、1月の政策決定会合で日銀が2%のインフレターゲットを明示しました。それにより、即座に金利が上昇するわけではありませんが、政府からのプレッシャーがさらに強まれば、なりふり構わぬ量的緩和を行うことも考えられます。
これまでも日銀としてはかなり大胆な量的緩和を続けているにもかかわらず、それが、インフレ率に反映していません。さらに、その量的緩和が、実質的に日銀が赤字国債を引き受けている形になっています。これがさらに続くと、先にも話したように、持続的な景気拡大がなければ、国債の信任が問われることともなりかねません。今後も、非常に難しい経済のかじ取りが必要とされているという認識が必要なのです。今回お話ししてきたリスクをしっかりと認識し、今後の動きに注目することが肝要です。
次回も引き続き、「物価目標2%」のリスクについて考えていきます。冒頭でも言いましたが、私もデフレ脱却は必要なことだと思います。しかし、実質的な意味でのデフレ脱却は、日銀に圧力をかけて金融緩和を行うことではありません。では、政府はどのような対策をとったらよいのか。この部分についても考察していきたいと思います。(次回につづく)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら