佐藤可士和「クリエーティブな仕事とは何か」 アートディレクターの佐藤可士和氏に聞く

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言語化できないのは、わかっていないから

──言葉にするわけですね。

クリエーティブの仕事はつまるところ自分の思考をどうコントロールできるかではないか。手によって描くスキルのように感じがちだが、結局、どういう概念で把握できたのか、もしくはその概念を使いこなせたのか。さらに組み合わせや再構築ができたのか。クリエーティブは抽象的なことなので、パッとそのステージにはなかなか行けない。だんだんわかってくるというのではなく、気づきがあったときに言葉にできる。

──イメージではなく……。

佐藤可士和(さとう・かしわ)
1965年生まれ。多摩美術大学卒業。博報堂を経て独立。国立新美術館のシンボルマークとサイン計画、ユニクロ、楽天、セブン‐イレブンのクリエーティブ ディレクション、明治学院大学のブランディング、カップヌードルミュージアムや「ふじようちえん」のトータルプロデュースなどを手掛ける。

言語化は重要で、言語化できないのはきちんとわかっていないからだ。漠然と感じていることと、わかっていることとはずいぶん違う。完全に理解し把握していないと、言語化ができない。こう言えばピッタリくる、という言葉を探し続ける。そうしていると、フィットする瞬間が出てくるようになる。その精度も高くなりスピードも上がってくる。

それは実は練習すればできるようになる。しかも、そんなに難しい練習ではない。ピッタリくるまで何回もやればいいのだから。もともと採用できる言葉にも限りがあって、知っている言葉を一工夫して組み合わせるだけでも生み出せる。

──ユニクロでのキーワード「美意識ある超合理性」もその一つ。

「美意識ある超合理性」はユニクロがニューヨークに旗艦店を作ったときのコンセプトワード。さほど難しくない組み合わせ言葉ながら、超合理性という聞いたことのない言葉によって、新しい概念でやろうとするモチベーションを生んだ。質のいいものをあの価格で提供するのはまさに合理性の極み。ユニクロを合理性の軸でとらえ、その合理性がずば抜けているから、超をつける。事実を反映し、かつ表現としても魅力的になるはずと、超合理性という言葉を考え出した。

一方の「美意識ある」は、ユニクロ全体に美意識があって、それがよくコントロールされていると思えたから。美意識あるはユニクロの社員や関係者に向けてわかりやすくするためにつけた。美意識とは顧客に言う言葉ではない。チーム内で共有するような、こういうつもりでやっていこうという言葉であり、大事な指標になるとして選んだ。

──柳井正社長との話し合いの中で。

そう。「美意識ある超合理性」のコンセプトで広告やPR、空間、インテリアあるいはウェブなどプロジェクトすべてで指標にした。これでやろうねという指針になる言葉であり、デザインコンセプトなので、顧客に申し上げるようなことではないが、この指針があることで会社としてはプロジェクト全体が極めてやりやすくなったはずだ。

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