40年前の「日本研究本」に中国人が群がるワケ なぜ今になって「爆売れ」?仕掛け人を直撃

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「日本社会は高度に発展し、成熟した社会です。中国経済の発展はいま、環境問題や治安、福祉など多くの課題と向き合う段階に入っており、日本の経験は中国にとって参考にすべきものが多いのです。

また、もともと中国人は日本のことにとても関心があり、留学や観光、仕事で訪問する人も増えており、日本というテーマは中国でいつも読まれます。中国の読者の読解力も上がっているので、この間の時代の変化はしっかり汲み取りつつ、日本という近代化のお手本から何を学ぶべきか考えてもらえる本だと期待しています」

実際、日本関係の書籍は、現在中国でかなり大きなマーケットを築いている。これはしばしば指摘されることだが、日本における嫌中書籍の大流行のような現象は、中国においては見られない。書店に並んでいるのは比較的中立的で、日本から知識を得ようというタイプの日本論が多い。

今の中国に必要な「成長後」の智慧

もちろん、あからさまな反日書籍は、中国政府の事前審査で恐らく引っかかってしまうので、そもそも出版しにくいという面はある。しかしそれ以上に、中国においては、尖閣問題や南シナ海問題で日本との対立局面が続いているとはいえ、一般社会のポジティブな対日関心度は決して低くなく、むしろ高まっているということである。

それは恐らく出版社の編集者が指摘するように、中国社会の発展段階が、一つの曲がり角に差し掛かっていることと関係しているだろう。中国の経済成長が鈍化し、過度の都市化による環境問題の深刻化、貧富の格差の解消の遅さなど、多くの「成長後」の問題にいま直面しようとしている。

そのなかで、日本の明治維新後の近代化や戦後の高度成長から中国人は多くを学んだように、いまの中国は「成長後」についても日本から智慧を求めようという状況にある。中国で、日本の生活や社会制度、教育なに関する書籍がよく売れるというのもこうした背景がある。

その意味では、いま中国人は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というタイトルではなく、本書のなかで描かれる成熟社会・日本の姿に興味を持っている、ということが言えるだろう。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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