日本初「健康な人ほど得する」医療保険の正体 ビッグデータをリスク解析し適正保険料を算出

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一般的な医療保険では支払事由に該当したからと言って、保障は消滅しない。終身タイプの保険であれば、保険料も加入時の金額から一生涯変わらない。したがって、同社の医療保険に関しては、「5大生活習慣病の入院保障を1年単位で買う」という考え方をするのがベストかもしれない。

これまで生命保険商品の中には、年齢・性別以外に喫煙の有無やBMIの値、ゴールド免許の有無などに基づいて、保険料を割り引く死亡保険(定期保険)などは存在した。だが、12項目以上にも及ぶ客観的な指標をもとに健康年齢を算出し、個々の疾病リスクをより精緻に予測して保険料を算出する本格的な医療保険は日本にはなかった。

「健康であればあるほど保険料が安くなる」ということの本質的なメリットは、「健康になろう」「健康でいよう」という意欲が高まる可能性があることだ。健康を維持するために、運動をしたり、食生活に気を付けたりすることで疾病リスクを減らすことができれば、これはすなわち医療費など増加する社会保障費の削減にもつながる。保険会社にとっても健康な人が増えれば、支払い給付金の削減ができ経営上のメリットも小さくない。

"病気に備える"から"健康になる"へ

海外では、南アフリカ共和国のディスカバリー社のように、契約者向けに健康改善プログラム(Vitality Program=バイタリティ・プログラム)を提供し、運動や食生活の改善、検診など健康につながる行動をポイント化して、保険料の割引やキャッシュバックを実現する保険会社も出てきている。同プログラムでは、保険料のディスカウント以外にも、映画のチケット、スターバックスの無料券、ジムの利用料金割引、航空券・ホテル宿泊費の割引などさまざまなインセンティブを付与することで魅力を高め、契約者数の増加とプログラム参加者の健康増進に成果を上げているという。

ディスカバリーは欧米やアジア諸国にも事業展開しており、同社の健康改善プログラムは世界に広がりつつある。日本でも同社の動きとは別にして、健康につながる各種行動によって将来病気になるリスクがどう変化するなど、ビッグデータを分析・解析する試みが一部の生命保険会社で始まっている。

今回、健康年齢少額短期保険が投じた「健康年齢を使った医療保険」という一石が保険業界に波紋を広げ、リスク細分型の自動車保険が誕生したときのように、健康状態や健康行動など個々のリスクをきめ細かく分析して保険料に反映させる生命保険・医療保険の開発が本格化することは必至だ。もっと言えば、「病気に備えるために医療保険に加入する」ではなく、「健康になるために医療保険に加入する」というように、そもそもの保険の概念を変えてしまうほどのパラダイムシフトが保険業界に起こる可能性がある。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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