最初のRPGを作った男の波乱万丈すぎる人生 ゲイリー・ガイギャックスを知っていますか

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「最初のRPGを作った男」とはいえ、D&D以前に無数のファンタジー小説があったし、原型となるウォーゲームも存在していたのだから、ゲイリーがその全てをゼロから作り上げたわけではない。D&Dの前提には無数のゲームをやり、小説を読み尽くした膨大なインプット期間がある。

1938年に生まれたゲイリーは6歳からチェスをはじめ、ファンタジーにサイエンスフィクション、ラヴクラフトまで様々な本と雑誌を読み漁り、ゲームばかりやっていた。ファンタジーの好みとしては、『指輪物語』などのハイ・ファンタジーよりもアクション増し増しの、ハワードの「コナン」シリーズやライバーの「ファファード・アンド・グレイ・マウザー」シリーズなどを好んでいた。ウォーゲームでは卓上ゲーム『ゲティスバーグ』にハマり──と、オタクの伝記は「人生を通して何にハマってきたのか」についての記録になってしまうのがよくわかる。

ゲイリーはD&Dを作る以前からファンとして、アマチュアのクリエイターとして、ゲーマーの中でも名のしれた存在であった。その関連もあって「ウォーゲーム製作者ギルド」と称される会の中心メンバーにもなっており、ゲームのコンベンションを主催することになる。その最初のイベントで集まったのは96人。今の感覚からすると「小規模でもないけれど、大規模でもないな」という感じだが、当時は革命的な出来事だったことが表現の熱量からよく伝わってくる。

“何もなかったところに、いまや一つのコミュニティが、共同体が形成されつつあった。さまざまな種類のウォーゲーマー、『ディプロマシー』のプレイヤー、ミニチュアファン、ゲーム・デザイナー……たちが、「世の中にはおれと似た奴がいる!」ということを発見しはじめていた。”

 

著者のマイケル・ウィットワーは3年の月日をかけて各種インタビューや過去の連載の情報収集、取材と執筆を行い、物語調の語りで本書を進めていくが、そのおかげでこのような「新しい物事が生まれていく時の熱気」が見事に切り取られているのが素晴らしい。ゲイリーがゲームを作る度、ゲーマー仲間たちが(ゲイリー自身も)「これはいい!」と新しいゲームに惚れ込んでいく興奮が、本書には多くのエピソードを通してこれでもかと詰め込まれている。

時代と運

伝記の形で人生を振り返ってみると、物事の多くが時代と運に左右されていくのがよくわかる。ゲイリーは8年半勤めた保険の査定員の仕事をクビになるが、これをきっかけとして彼はこれまで非/半商業のアマチュアとして行っていたボードゲームの作成に打ち込めるようになる。クビになった後に、(当時は珍しい)ユニットを部隊から個人単位に変更したD&Dの原型ともいえる『Chainmail』を発売しヒットさせ、本格的にゲーム制作の世界へと足を踏み入れる。

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