「戦争の足音」が欧州の東から迫りつつある ロシアが核の一撃考えているとの観測も

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一方のロシアはこの10年間、石油で得た収入を惜しげもなく軍事費につぎ込み、近隣諸国に圧倒的な力を持つ軍隊づくりを虎視眈眈と進めてきた。いくつかの予測によれば、ロシアは国境を接する国々の国軍及びNATO軍を即座に打ち負かすのに足る以上の軍事的能力を、既に備えている。

過去のウクライナやグルジアと同様、最も発火点となる可能性の高いのはロシア系住民の人口が多い地域であり、どうしてもバルト3国との国境地域ということになる。こうした国々の政府はすでに、それら地域においてリスクを減らすための軍備増強や政治的努力を積み重ねている。しかし、専門家の中には、NATOの対策は過剰に軍事的な緊張を高めるだけになりかねないとの指摘もある。

NATOの非加盟国であるウクライナもグルジアも、2008年と2014年にロシアと戦争状態になったとき西側の軍事支援を頼ることはできなかった。バルト諸国の場合は事情が異なる。NATOの創立憲章の保護下にあり、1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなされるからだ。

西側の即応体制に穴も

冷戦期にNATOの欧州連合軍司令官は、欧州に駐留するNATO軍の対ロシア作戦での指揮権を持っていた。しかし現在はそうではなくなり、多くの決定を下すのには加盟国の政治的な承認が必要になった。これはある意味厄介な状況であり、侵略された場合の対抗措置は、以前と比べて遥かに打ち出しにくくなるだろう。

ロシアはこの種の対立が起こった場合の戦略の中心に、核戦力を置いている。西側の専門家によると、最近の軍事演習ではロシアが言うところの1回限りの「戦争の拡大を防ぐ核攻撃」の占める割合が、非常に高くなっていたとのことである。

その戦術は非常にシンプルではあるが、著しい危険をもたらしかねない。理論上は、ロシア軍がNATOのような敵と交戦して一度通常戦で勝利した場合、西側諸国を脅して軍を解隊させ結果を受け入れるよう迫るために、核ミサイルを一発発射する、というものだ。

NATOの複数の高官は、バルト諸国への侵攻を想定した2013年のロシア側の大規模軍事演習のシナリオは、ワルシャワに核攻撃をして終わらせるというものに思えたと述べている。もっと最近では、そんなことをしたらNATOからの核による反撃が避けられないと懸念したせいか、ロシア軍の演習はたとえばNATO軍の小艦隊のように、純粋に軍事的な単独のターゲットを狙う傾向が続いている。

そういった攻撃をすれば、少なくとも何千人かが死ぬことになるし、次に何が起こるかはほぼ予測不能だ。プーチンがそうした軍事行動でNATOをバラバラにし、諸国がどう反応するかで意見が分かれ、絶望した状態にしたいと望むのも無理はない。

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