高校野球の存続脅かす「審判」という時限爆弾 必要人数のべ1.6万人!なり手は年々減少

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そして、その判定が試合の動向に決定的ともいうべき影響を与える。ホームベースにランナーが返ってくる、ボールを受けたキャッチャーがランナーにタッチする、さて、ランナーが先か、タッチが先か。野球を観戦したことのある人なら誰しも、審判の判定がアウトかセーフか“固唾をのんで”待った経験があるはずだ。

それほど重要な役割を担う審判なのだが、高校野球ではこれをすべてボランティアが務めていることをご存知だろうか。

もちろん、まったくの素人というわけではなく、学生時代に野球経験のある社会人が都道府県の連盟に審判委員として登録し、練習試合などから徐々に経験を積んでいく。その際、特に資格認定はなく、基本的に審判としての能力はOJT(仕事を通じての訓練)によって高められていく。

高校野球の審判に資格制度が導入されていない理由は、そこで求められている能力がルールの理解や判定の正確さだけに留まらないためである。

日本高等学校野球連盟(日本高野連)が発行している『高校野球審判の手引き』によれば、審判は「優秀な審判技術の持ち主であると同時に、高校野球らしさを正しく教える指導者」でなければならず、「善良で健全な社会人として世間からも選手からも信頼される人柄でありたいもの」とされている。

要するに、高校野球の審判は、人格的にすぐれた人間として“高校生らしい野球”のチェックを主たる任務としているため、アマチュア野球全体の統一的な資格制度には乗りにくいのだ。

当然のことながら、ボランティア審判は無報酬なので、大会の運営サイドにとっては開催費用の節約となる。しかし、そのシワ寄せはすべて審判に降りかかる。

まず、大会が始まると平日/休日お構いなしに試合にかり出される。なにしろ、地方予選から数えれば全国で4000を超える試合が行われるのだから、延べ1万6000人以上の審判が必要とされる計算だ。

そして彼らにも“本業”があるわけで、大会中は休暇をとらなければならない。甲子園大会ならば、8月中旬の開催のため比較的休みが取りやすく、テレビでも放映されるのでなんとか上司を説得できるそうだが、問題となるのは地方大会である。

落ちる動体視力に監督から不満の声

働き盛りのサラリーマンともなれば、いかに高校生のためのボランティア活動とはいえ、そう簡単に休みはとれないだろう。

高校野球は、甲子園大会以外にも、地方の春季/秋季大会や加盟校同士の練習試合などがあり、12月~3月初旬のオフシーズンを除けば常にどこかしらで試合が行われているため、これらすべてにかり出されると、それこそ毎週末を野球場で過ごすことになりかねない。まさに「家庭崩壊を覚悟の上の任務」(某審判委員の話)と言えるのである。

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