アップルが大量の「自社株買い」に走る理由 米企業の自社株買いは今年4500億ドルにも

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現在の低金利は、世界経済の不振と各国の中央銀行による拡大的な金融政策の結果だ。おかげで大企業は減益であっても、また資金の生産的かつ差し迫った使い道がない場合であっても、低い利率で資金調達を行えるようになった。

例えばアップルはこの春、iPhoneの売り上げが減少し、中国市場での事業が予想を超える困難に見舞われ、減益となったことを発表したが、一方で同社は2300億ドルを超える現金と、同じくらいの額の有価証券を保有していることも明らかにした。現金の大半は、米政府からの直接の課税対象とはならない海外にある。

またユーロや円、スイスフラン建てで多額の社債を発行しているため、手元資金は無限と言っていいくらい潤沢だ。研究開発や工場建設、企業買収に資金を投じてもまだまだ余り、結局その大半は自社株買いや配当金という形で株主還元に使われている。

「ブームの後には景気後退」の法則

こうしたやり方は、短期的に見れば株価にいい影響を与えることが多い。だが長期的に見れば、利益がしっかり伸びない限り、この種の金融工学的な手法はそれ以上の果実は残さない。

歴史的に見ても、自社株買いの増加が明るい未来を示しているとは限らない。前回、米企業の自社株買いが過去最高を記録した後に何が起きたか振り返ってみるといい。それは2007年12月、つまり直近の歴史における最悪の不景気と株価暴落の直前だった。「グレート・リセッション」と呼ばれる景気後退は2007年12月から09年6月まで続いた。そして2007年12月から2009年3月の期間に、株価はほぼ半分まで下落した。2007年末の自社株買いの急増は、景気および株式市場のサイクルが最高点に達し、その後に手痛い修正を食らったことを意味している。

今のところ、米企業による自社株買いの動きはさらに強まっている。手持ち資金が潤沢だから、このトレンドは当面、続くだろう。だがある時点で、株価を下支えする自社株買いの魔力は消える。そうなったとき、株価が「バブル」だったことが分かるのだ。

(執筆:Jeff Sommer記者、翻訳:村井裕美)

(c) 2016 New York Times News Service
 

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