新日本プロレスの売り上げを10倍にする 木谷高明・新日本プロレス会長に直撃(その2)

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グローバルエリートからの講評

 まず新日本プロレスが3年で売り上げを3倍にするという目標だが、これを実現するにはライブの会場サイズを上げ、また単価を上げなければならない。年間100回を超える試合数をこなすプロレスラーの皆さんに、今の3倍試合数をこなせというのは物理的に不可能だからだ。

この実現には人気レスラーを数人増やすとかではなく、他団体や格闘技団体の吸収を含めた業界再編の主導が必要となるだろう。というのも新日本プロレスは、現状でもプロレス市場の3分の1以上の売り上げを有していると考えられ、3倍の売り上げを目指すということはプロレス市場全体を大きくし、かつ市場占有率を100%近くに高めて初めて達成できる数字だからだ。

以下は単なる推測だが、経営に苦しむプロレス団体は買って債務を引き継いでも仕方ないため、権利関係を早期に整理してあげ、業界に残るべきレスラーを新日本のプラットホームに集結させ、他団体のオーナーと債権者を早期に損切りと撤退に導いてあげることが業界再編に必要だろう。

もしくは放っておいたら格闘技団体を含め、他のプロレス団体が倒産する可能性が高いため、向こうから救済を求めてくるのを待ったほうが、新日本プロレスのビジネスの交渉としては搾れるジュースが多いかもしれない。

仮に新日本プロレスが業界再編によらない自前の成長を志向した場合、プロレスをコンテンツビジネスととらえたビジネスモデルの再編が必要になる。プロレスはそのコンテンツの横展開が弱かったが、ブシロードはカードゲームでわかりやすい相乗効果を上げられるので、グッズ販売は急増している。

私も昔そうだったからわかるのだが、プロレスファンはお金にいとめを付けずプロレスグッズを買い求める傾向があるため、商品開発とマーケティング機能およびオンライン販売を強化することが、経営陣の課題の1つとなろう。

またどの業界の顧客でも顧客単価が高いのは30歳前後の独身女性であるため、その層をターゲットとした商品開発の重要性は木谷氏も指摘されるところである。全国1000万のプロレスファンの皆様は、リングの中の試合だけでなく新日本プロレスがメディア戦略・マーチャント戦略をどのように打ち出し、社会での認識度を高めていくのか、成長戦略の遂行のところも注目していただきたい。

さて、グッズ販売にしてもコンテンツの横展開にしても海外進出にしてもWWEからのインサイトを得ている木谷氏であるが、新たなマーケットで大きく新規顧客を取り込もうとすれば、おのずとプロレスって何なの、という質問に明確に答えなければならない時が来るだろう。それに対し、日本最大のプロレス団体のオーナーは何と答えるのか。次回インタビューでプロレスの定義に対する核心に迫っていきたい。

ムーギー・キム 『最強の働き方』『一流の育て方』著者

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Moogwi Kim

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当した後、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。著書に『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著)など。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。

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