「日本一オーラがない監督」が成功したワケ 元早稲田大学ラグビー部監督 中竹竜二氏に聞く(上)

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カリスマの後任という重圧

当時の早稲田大学ラグビー部は、清宮監督というカリスマ性を持った監督の下で02年度に13年ぶりに全国大学選手権優勝、04年度、05年度は2連覇という大きな成功を収めていました。学生からすると、清宮監督は、低迷した早稲田を圧倒的な指導力とカリスマ性で建て直した絶対的な存在です。

そのため、新監督に就任した私に対する学生の期待は、「僕たちにどういうラグビーを提示してくれて、どうやって勝たせてくれるのですか」というものでした。しかし、私の考えは違いました。最初のミーティングで、「やるのは君たちだから自分たちで考えることが大事。僕は君たちが考える土壌をつくりたい」という話をした。

リーダーシップは人を引っ張っていくという概念です。しかし、私が考える組織の作り方はフォロワーシップ。つまり、組織の一人ひとりが考えて、課題を解決しながら成長して勝利をしていくというものでした。

「監督がきちんと戦略を立てて、勝たせるための練習をする。僕らは言われたとおりやるだけ」という選手の考え方とのギャップの大きさは感じましたね。最初は賛否両論どころか、否定の声ばかり聞こえてきました。

舌打ちする選手など困難の連続

実際、練習の初日から困難の連続でした。

練習を指導していたら、ため息をつく部員や、舌打ちする部員がいた。「こんなことやるのかよ」「つまんねー」といったつぶやきすら聞こえた。会社でいえば、新しい部署の部長に就任したのに、部下が誰も言うことを聞かないで文句ばかり言っているというような状態です。

とはいえ、それはある意味当然です。清宮さんという素晴らしい監督の下で一流のコーチングを受けていた部員からすれば、急に指導経験のない新しい監督がやってきて質の低い練習をさせられているということになります。

選手の態度を見て、私以外のコーチ陣は怒りました。しかし私は、そのような選手の態度を受け止めることが本当の指導者だと考えていました。

態度に出さないで心の中で「ダメな練習だな」思っているだけでしたら、その選手の思いに気づくことができません。チームを強くするためには、選手の本音を受け止め、真摯に改善していくことが大切なのです。

もちろん、そんなチーム状況を放置しておけば優勝することができません。では、どうやって変えていったのか。

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