なぜエチオピアは「薬物」を輸出しているのか 貧しさゆえの負の連鎖が続いている

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

チャットは、噛むと葉から出る液で徐々に高揚感が沸き、エネルギーが出ることから、主に男性たちの社交の場や、ムスリムのラマダン中の夜通しの祈りの間など宗教上の儀式でも使われてきた。現在ではエチオピア、ソマリア、ジブチなどの国々や、中東イエメンで広く消費されている。

アディスの自宅でチャットを噛むアゲグネフ・タデセ©Kiyori Ueno

「噛むとパワフルになって、アイデアが次から次へと出てくる。一日中起きていられる」と言うのはアディスに住むビジネスマンのアゲグネフ・タデセだ。市内の自宅でコーヒーを飲みながら母、姉妹、おば、親戚たちと週に1~2度楽しむ。

しかし、チャットは“薬物”という別の顔も持つ。

チャットの作用はマリファナやコカインに比べると弱いものの、世界保健機関(WHO)は1980年、乱用すると低度から中度の心理的依存を引き起こす乱用薬物と指定。米国司法省麻薬取締局もチャットは含有する刺激物質により、「多幸感、エネルギー、食欲不振、倦怠感の欠如などの作用を引き起こす」こと、「効果が切れたときには、不眠や集中力の欠如を引き起こす」ことを報告している。

チャットはサウジアラビアやアラブ首長国連邦では非合法であり、米国、カナダのほか、欧州でも多くの国が薬物として禁止している。チャットを噛む習慣のあるソマリア移民が多い英国でも2014年にチャットは薬物と認定されて禁止された。

穀物畑をチャット畑に換える農民たち

ジジガの町ではあちこちでチャットの束が売られている©Kiyori Ueno

チャットは、乾燥し涼しい土地に生育するため、エチオピアの高地の気候はチャット栽培に最適だ。また、チャットは換金しやすく、他の農作物よりはるかに高い収入が得られる。このため、農民の中には畑を穀物からチャットに換える人々が増え続け、チャットの作付面積はエチオピアの主食インジェラの原料であるテフなどの穀物をはるかに上回るペースで拡大している。

エチオピア中央統計局によると、テフの作付面積は2003年度の199万ヘクタールから2014年度には300万ヘクタールと1.5倍拡大したのに対し、チャットの作付面積は11万ヘクタールから25万ヘクタールと実に2.3倍に拡大した。

次ページ農家の生活はどうなっているのか
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT