「65歳まで全員雇用」で企業、個人はどうなる 4月から「65歳まで全員雇用」を義務化

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その是非はともかく、いずれにしても全ての企業は、この政策を反映しなくてはならない。

すでに一歩先を行き、定年延長を選択している企業はある。イオンでは07年から、富士電機ホールディングスでは00年から、65歳への定年延長を導入。サントリーホールディングスはこの4月から、65歳へ定年を延長する。正社員のままでいる定年延長では、賃金・賞与から退職金、福利厚生まで、企業が背負う負担は重いが、これらの企業はあえてその決断を下した。

賃金カーブ見直しでミドルの人件費削減

多くの企業は再雇用を選択するものと思われる。そうなった場合、企業のコスト増はどれくらいになるのか。

経団連によると、改正高齢法の影響によって、今後5年間で企業が払う賃金総額は、2%=2兆円増えると試算。今春闘に向けて、いよいよ賃金カーブの見直しに着手したい意向だ。

いまだ年功賃金が柱となっている日本企業では、年齢に合わせて自動的に毎年昇給する仕組みが多い。賃金カーブは定年に向かって右肩上がりのカーブが基本。だが個々の企業にとって、中長期的な成長が望めない中、全体のファンドが限られているなら、どこかから雇用延長の原資を持ってくるしかない。

これを賃金カーブの傾斜を寝かせることで、特に40~50代の人件費を削り、60代に充てようというわけだ。90年前後に入社した40代半ばの「バブル世代」は、どの企業の人員構成でも例外なく、最も膨らんでいる。発想としては、ミドルからシニアへ、企業における世代間の所得移転に近い。

単純なコスト増以外にも課題はある。企業にとっては社内の活性化もその1つだ。60歳以上の人間が居残る以上、どのポストに充て、どんな仕事を与えるのか。高齢・障害・求職者雇用支援機構の河内哲郎・雇用推進研究部次長は言う。「休まない。遅刻しない。でも、仕事しない。こういう高齢社員が一番困る(苦笑)」。高齢者の雇用延長は、一歩間違えれば、組織全体のモチベーション低下にもなりかねないからだ。

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