日本株が意外にもジワリ上昇しそうな理由 円高局面なのに、なぜそんなことが言えるのか

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実は、年金などの機関投資家は、中長期を見て投資をしており、政治的なリスクを警戒する傾向がある。政治が安定していなければ、政策の方向性が掴みきれず中長期的な投資リターンを得るのは難しいからだ。

日本では、第2次安倍政権が成立する2012年まで、毎年首相が変わっていた。2006-07年は第1次安倍政権、2007-08年は福田康夫氏、2008-09年は麻生太郎氏、2009-10年は鳩山由紀夫氏、2010-11年は菅直人氏、2011-12年は野田佳彦氏。この間、小泉政権で流入していた年金などの外国人投資家は、ねじれ国会などによる政治リスクを懸念し東京市場を去っている。もちろん要因はそれだけではないが、外国人投資家が中長期的で株を買うには、政治的な安定は必要と見ておいたほうがいい。

中長期の投資資金が日本に向かう可能性

G7首脳の就任時期を見ると、メルケル独首相が2005年、オバマ米大統領が2009年、キャメロン英首相が2010年、オランド仏大統領が2012年、レンツィ伊首相は2014年、トルドー加首相は2015年だ。このうち、オバマ大統領、キャメロン首相の退任は決まっている。欧米以外の国はカナダとなるが、カナダ株式市場の時価総額は世界で3%弱と東京市場の半分ほどだ。欧米の政治リスクを嫌気した中長期的な投資資金が、消去法的に日本株に流入する可能性はゼロではないだろう。

もちろん年金など多くの機関投資家は地域ごとに投資する枠が予め決まっていることで、このロジック通りにはいかないかもしれない。また、参議院選挙を目の前に控えていることや、マイナス金利に対する不透明感など日本株に資金を移せない要因は多々あるだろう。さらに、これまで筆者が主張してきた通り、外国人投資家からすると、日本株投資への魅力は2012年や2013年に比べるとかなり薄らいでいる。

ただ、政治的な安定という側面から見ると、日本が他の国よりも相対的に良く見えるのも確かだ。来年、再来年も消費増税はない。10日の参議院選挙に与党が勝利すれば、強引な手法で憲法改正に乗り出さない限り、政治的安定はより高まるはずだ。消去法的な投資資金流入という何とも弱い可能性だが、世界的なリスクが高まっているなか、痛みを伴う構造改革などを進めていくと、外国人投資家の見方も変わってくるだろう。問題はその構造改革が、果たしてできるかどうかなのだが。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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