英国民は「ロシアンルーレット」で離脱選んだ 単純な多数決に秘められた「暴発」の危険性

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欧州は今、EU加盟国で続々と離脱投票が行われるリスクに直面している。喫緊の課題は、これらの決断を下すための、より適した手法があるかだ。私が周囲の政治学者に聞き回ったところ、残念ながら「ない」という回答ばかりだった。

古代から賢人たちは、少数派の意見の尊重と、確かな情報に基づいた決断の重要性とのバランスを取る仕組みの構築を試みてきた。古代ギリシャの都市スパルタでは、投票は喝采によって行われた。人々は自分たちの選好の強さを声の調子を変えることで表現し、議長は注意深くその音を聞き、結果を採択した。この方式も確かに不完全ではある。しかし今回の英国の投票よりはましだったかもしれない。

1回限りの「多数決」では不十分だ

いずれにせよ明らかなのは、国家の命運を左右する決断については、やはり国民の51%ではなく、「圧倒的多数」の賛成が必要だということだ。その多数派は、時勢によって左右されるのではなく、安定している必要がある。国家の針路は、束の間の熱狂に左右されてはならない。今後、英国で経済的、政治的な混乱が表面化した場合、離脱派には「バイヤーズ・リモース(購入後の悔恨)」が蔓延する可能性もある。

繰り返すが、英国のEU離脱について、ハードルはより高くあるべきだった。たとえば第1回では60%の獲得を条件とし、2年間の間隔を空けた後、第2回の投票を課すなどの対応が必要だった。

今や英国の投票結果によって、欧州全体が混乱に陥ってしまった。今後重要なのは、世界がこの事態に冷静に対処し、かつ英国政府が事態の収束を図ることである。それにはどんな結果を出すかだけでなく、その取り組みの過程を評価することも不可欠だ。

今後、国家の独立など重要な議題には、多数決以外の要件が必要となろう。単純な多数決という方式は、私たちが今見ているとおり、混乱への落とし穴なのである。

週刊東洋経済7月9日号

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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