夏野剛(下)「敵がいないヤツは何も決められない」 株主は企業経営者を甘やかしすぎだ

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――ネットの登場で、情報はフラットになりました。

フラットになった。どこにでもあって、いつでもアクセスできる。

――どの分野においても?

そうです。日本は原子力発電所のにわか専門家がいちばん多い国になった。みんな福島のことが心配で、調べまくっているワケです。ただ、そのにわか専門家であっても、ものすごく正確なことを言っていますよね。

たとえば東日本大震災の起こった翌日である2011年3月12日の段階で、素人でも「おそらくメルトダウンが起きているはずだ」という情報を発信していた人がいた。政府はデマだとか風評被害だと、あのとき言っていましたけど、実際にメルトダウンは起きていた。政府が逆に情報操作をしていました。

――素人の情報が信用できるんでしょうか。

論文などのいろんな情報に当たり、URLのリンクなどで出展を示したうえで結論に至っている情報は信頼できます。逆に虚偽やデマを見極めるのは簡単です。URLなどの出典が明記されていない主観的な文章は、無視すればいい。参考にする必要がない。

建前には価値がない

――昔のマスコミは情報を伝えるだけで価値を提供できましたが。

今は付加価値をつけなければならない。だとすれば、たとえば業界にいた人を雇えばいい。大手経済新聞の記者は担当分野をなぜ2年ごとにローテーションするのか、意味不明です。米国だって欧州だって業界にいた人がアナリストになったり、アナリストをやっていた人がメディアに行ったり、当たり前です。そうやって自分のキャリアをつくっていくワケです。

それなのに携帯電話業界を担当していたと思ったら、次に生保業界をやれ、と言われてやっているというのは、まったく専門性がない。誰でもいいのかという話。それはメディアにいれば、一律に情報が得られる時代のスキームじゃないですか。むしろ素人のほうがよっぽど情報を持っていたりする。

今は本当のこと書くと支持が集まる。本当のことを言う。みんなそうだろうなと。なぜかというとそれがファインディングだから。業界にいる人間が発見したことというのは、一般人が気付けなかったこと。言われてみたら絶対におかしいんです。それが正しいかどうか。調べればちゃんと出てくる。みんなそうだったのかと思うから人気が出てくる。僕も(有料のメールマガジンである)ブロマガで、一般の人が気付かなかったことを書いている。それが気付きになる。

――東洋経済オンラインで掲載しているインタビュー記事も、本音で語ってくださる方の発言が支持されています。

当たり前ですよ。価値がある。建前には価値がない。友だちだって建前ばかり言うやつと飲みたくない。本音を話すやつのほうが面白い。

(撮影:梅谷 秀司)

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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