夏野剛(上)「オタクが100人のエリートに勝つ」 IT・ネットが変えた個人と組織の関係

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日本の新しいモデルを創る「新世代リーダー」とはどんな人なのか。どんな能力、教養、マインドセット、行動が必要となるのか。国内外のリーダーを知り尽くした、各界の識者たちに「新世代リーダーの条件」を聞く。
第5回目は、NTTドコモ「iモード」の生みの親で、現在は動画配信サイト「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」などで知られるドワンゴの取締役とともに、トランスコスモスなど複数社の社外取締役や慶応義塾大学大学院・特別招聘教授、テレビのコメンテーターなど幅広く活動する夏野剛さん。
ニコニコは昨年12月16日に投開票された第46回衆院選を前にした11月末に、自民党、民主党など主要政党の党首討論を生中継し、述べ140万人のアクセスを集め、社会的に大きな反響を得た。そして自民党は今回の衆院選で大勝利。安倍晋三首相は、今年7月の参院選までにインターネット選挙を解禁すると公言している。
IT・ネットは今や社会の一部として完全に組み込まれ、さらに社会を変えていく。個人や組織はこれをどう理解し、リーダーはどう向き合うべきか。IT・ネット社会の最前線にいる夏野さんには、どんな景色が見えているのか。

――インターネットで党首討論が生中継される時代になりました。

IT・ネットが世の中に出てきて、いちばん変わったのは、個人と組織の関係性です。今までは組織、たとえば企業や大学などに属さないと、専門的な情報はまず手に入りませんでしたが、ネットの普及によって、一個人でもかなりの情報が手に入るようになりました。情報収集能力に個人と企業の差がほとんどなくなった。

情報収集能力だけでなくて発信能力もそうです。たとえば、僕にはTwitterのフォロワーが約12万人いますが、個人が12万人に自分の意見を伝えるメディアなんて、今まで存在しませんでした。言いたいことがある人は、特定の組織に属さなくてもドンドン言えるようになった。つまり、組織から個人へ大きなパワーシフトが起こっている。

典型が橋下(徹・大阪市長)さんだと思うんです。党に所属しているという組織力はあまり関係なく、個人力であれだけの議席数を獲得したワケですよね。その橋下さんが世の中に広く情報発信するツールがTwitter。これまで、一個人が週刊朝日のようなマスコミに、あれだけ特集記事を組まれたら反論できなかった。でも橋下さんはTwitterを使って、みずから1人で反論した。それで勝っちゃった。これなんか典型的です。

「何をやりたいか」が問われる

――今の時代のリーダーは、どうあるべきでしょうか。

リーダーシップのあり方もまったく変わってしまいました。今までは組織を維持しなければ、情報の収集も発信も、政策立案や政策を広めるといったことなどもできませんでした。組織を維持、拡大するというのが大きなミッションで、それによっていろんな情報を入手、発信できた。だから、これまでのリーダーは組織をまず整備して、その後で自分のやりたいこと、改革を進めた。

一方、今はそんなことはあまり重要でなくて、むしろリーダーが何をやりたいかがストレートに問われる。企業で言うとユーザーや消費者にダイレクトにコミュニケーションできるし、一次情報をリーダー自身が取れる。政治で言えば有権者の声。自分がやる気になれば、一次情報を自分なりに解釈して、しかもそれに対して発信できる。リーダーは新しい武器を手に入れているんです。政治も経営も同じなんですよ。

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