資本主義は、もう「戦争」でしか成長できない 思想家・内田樹×政治学者・白井聡 特別対談

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内田:資本主義的な観点で言えば、兵器産業こそ理想の産業なんです。「自動車産業は裾野が広い」とよく言われますが、兵器産業も同じで、その下に鉄鋼、プラスチック、ガラス、ゴム、コンピュータ、石油、ゼネコンと、ほとんどすべての産業がぶら下がっている。

加えて、ふつうの商品は市場に投入されると、ある時点で飽和してしまうから、需要が鈍化するのだけれど、兵器というのは市場に投入されればされるほど、市場が拡大していく。だって、兵器の主務は他の兵器の破壊ですからね。同業他社製品どころか、自社製品だって、ばんばん破壊してニーズを作り出してくれる。過剰生産で市場が飽和するということが絶対にない「夢の商品」なわけです。

ですから、ありえない経済成長に最後の解を求めた人たちが「戦争をやろう」「兵器を作ろう」ということになるのは、目先の利益を考えたら当然のことなんです。戦争をして欲しい、ただしうちの近くは困る。うちの裏庭じゃないところでなら、いくら戦争をやってもらっても構わない、と。日本では安倍政権が兵器の輸出を後押ししているから、産業界では今頃、「どこかで戦争が始まりますように」と祈願しているんじゃないですか。

本物の天罰が下る

白井:はい、「そろそろどこかで戦争でも起きてくれないことには、日本経済も立ちゆかなくなってきますなあ。さすがに日本の国土でドンパチやられたのではたまらないから、私はインドあたりで戦争が起きてくれれば、我が国としては一番有り難い展開になると思ってますよ」とズバリ言った大会社の社長さんがいるそうですね。思うのですが、この社長さんは、他の人よりも少し率直なだけなのです。自覚のないまま、事実上この思想に賛成し、加担しているという状況こそ、最悪ですね。

一番有望なのは中東ということになるでしょう。中東で大戦争が起これば、大量破壊で復興需要が生まれるので、世界経済に成長の余地が生まれてくる。今の中東情勢を見ていると、もしかするとそれがもう間近に迫っているのかもしれません。

ただ、「どこかよそでやってもらえれば」なんて、そんなに甘いものではないでしょう。何かしら日本にも飛び火してくるはずです。それこそグローバルな連鎖のリスクが高まっていますから。

内田:でも、そこで本物の天罰が下るかもしれませんね。いや、暗いなあ。いずれにしても、とんでもない話でね。「うまくいこうがいくまいが、とにかく成長政策を続ける」という無理筋の思考そのものから脱却しないといけないですね。

白井:はい、そのきっかけが東京オリンピックが開催不能に追い込まれるというようなことで済むならば、これは御の字でしょう。我々としては、何とかできるだけソフトランディングできるよう、世の中に訴えかけを続けるほかありません。

内田 樹 思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授

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うちだ・たつる

1950年東京都生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。凱風館館長、多田塾甲南合気会師範。著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『レヴィナスと愛の現象学』(文春文庫)、『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書、第6回小林秀雄賞受賞)、『日本辺境論』(新潮新書)、『街場の天皇論』(東洋経済新報社)などがある。第3回伊丹十三賞受賞。

 

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白井 聡 政治学者、京都精華大学教員

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しらい さとし / Satoshi Shirai

1977年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。3.11を基点に日本現代史を論じた『永続敗戦論 戦後日本の核心』(太田出版、2013年)により、第35回石橋湛山賞、第12回角川財団学芸賞などを受賞。その他の著書に『国体論 菊と星条旗』(集英社新書、2018年)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社、2020年)などがある。

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