資本主義は、もう「戦争」でしか成長できない 思想家・内田樹×政治学者・白井聡 特別対談

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内田:ええ。ミドリムシと、あともうひとつだけだって聞きました。京大の山中伸弥先生がノーベル賞を受賞したiPS細胞にしても、発見としてはもちろん画期的なものだけれども、ビジネスにできるかというと難しい。アメリカの特許のレギュレーションがきつくて、なかなかビジネスにならないんだそうです。僕が話を聞いたアメリカの医者がそう言ってました。ITやバイオが経済成長を牽引できる産業に育つ可能性は、日本にはほとんどない。じゃあ、安倍政権はいったいどうやって経済成長を実現する気なのか。

東京オリンピックは、とっとと開催返上すべき

内田 樹(うちだ たつる)/ 思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授 1950年東京生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。凱風館館長、多田塾甲南合気会師範。著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『街場のアメリカ論』(文春文庫)、『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書、第6回小林秀雄賞受賞)、『日本辺境論』(新潮新書、新書大賞2010受賞)、『日本の反知性主義』(編著、晶文社)、『街場の戦争論』(ミシマ社)、『日本戦後史論』(白井聡氏との共著、徳間書店)などがある。第3回伊丹十三賞受賞(撮影:ヒラオカスタジオ)

白井:アベノミクスのいわゆる「三本の矢」という政策は、「経済成長に効く」と言われている政策を全部やってみました、というものでした。しかし案の定、上手くいかない。となると、オリンピックくらいしか残っていないということになる。オリンピックで土地バブル、建設バブルを狙うという。

内田:なりますかね。

白井:せいぜい、東京の一部で部分的に地価が上がる程度だと思いますね。それ以外には、建材と建設労働者の人件費が上がって東日本大震災復興を阻害するという副作用が生じていると聞きます。そして、東京オリンピックは、裏金の問題がいよいよ深刻化してきました。とっとと開催返上するべきです。新国立競技場のことにせよ、エンブレムのことにせよ、トラブルが多発しているのは、動機が不純だからでしょう。福島の原発事故のことを誤魔化したいから、経済成長の夢を見て酔っぱらっておればいいのだ、と。「否認」の象徴です。

内田:建設業でも、作業員の高齢化が急激に進んでいますよね。技術を持った人たちが高齢化して減ってしまい、技術の継承もうまくいっていない。日本の建築技術の質が落ちてきているという話を聞きましたけど。

白井:宮崎学さんなどが以前から批判的に指摘していました。いわく、自民党政府は小泉改革のあたりから、特に地方の公共事業を絞りに絞って、各地の建設業者を潰してきたわけです。それにより土木建設業界が非常に脆弱な構造になってしまい、自己再生産ができなくなっている。技術の継承ができず、以前の水準が保てない。それに利益率が極端に低くなっていましたから、どこかで手抜きをせざるを得ない。どこでやるかというと、やはり素人の目には見えない部分でやると。たとえばコンクリートの強度を落としたり。

内田:基礎の杭を打たないとか(笑)。

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